聴覚障害者に裁判員制度を伝える  
2010年3月8日
嘉田眞典さん(兵庫県立聴覚障害者情報センター所長)

―――皆さんは、聴覚障害者向けの、裁判員制度についてのDVDをつくりました。どのような動機でつくられたのですか?
(嘉田さん)
昨年から裁判員制度が導入されることは知っていましたが、その制度と内容を聴覚障害者にも正しく伝える必要があると考えました。そのためには手話や字幕などを用いて説明する必要があり、DVDをつくることにしました。このようなDVDはほかには聞いたことがなく、初めての試みかもしれません。

―――DVD製作にあたって留意したこと、苦労したことをお聞かせください。
(嘉田さん)
DVDでは裁判員制度特有の専門用語なども説明しなければならず、それを手話でわかりやすく表現するよう心がけました。また、聴覚障害者に裁判員候補の通知が届く場面から始め、聴覚障害者の立場に立って、実際に裁判員候補になった場合にどのように対応すべきかを、わかりやすく理解してもらえるよう工夫しました。
製作にあたっては神戸地方裁判所の方々が、シナリオの製作から実際の撮影まで、熱心に協力してくださいました。
なお、このことを通して裁判所の方々に聴覚障害者のことの理解も深めてもらうことができました。

―――DVDの反響はどうでしょうか。
(嘉田さん)
DVDは当センターのライブラリーで観てもらったり、貸し出しもしています。この間、兵庫県下の聴覚障害者団体や施設に配布しましたが、地域での学習会でも使われています。マスコミに取り上げられたことから、県外からのお問い合わせもあります。
DVDを観た人たちから「裁判員制度のイメージがつかめた」との感想が寄せられています。
今回つくったDVDで、聴覚障害者に裁判員制度そのものを知ってもらうことができましたが、実際に聴覚障害者が裁判員になったときに法廷でどのように裁判に参加するのか、というようなことを伝えることも、今後は必要だと考えています。

―――裁判員制度については積極的に推進すべきという意見もありますが、不安を表明する国民の声もあります。嘉田さんは裁判員制度についてどのようにお考えですか。
(嘉田さん)
私自身も聴覚障害者ですが、国民の一人として裁判員制度も前向きに考え、協力できることは協力していきたいと考えます。また、まわりの聴覚障害者にも裁判員制度への理解を広げていきたいと思います。

―――裁判員制度以外では、日本の司法制度に対してどのような要望がありますか。
(嘉田さん)
私はこの間、たびたび障害者自立支援法に関わる裁判の傍聴に参加した聴覚障害者から聞いたのですが、裁判所には聴覚障害者の傍聴者に対する手話通訳者が配置されていません。聴覚障害者は自分たちで手話通訳者を連れて行かなければなりません。これからはぜひ裁判所として手話通訳者を配置して欲しいです。

―――嘉田さんとセンターの積極的なとりくみをお聞かせいただき、ありがとうございました。