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誤ったDNA鑑定によって真犯人と間違われ、長い間の違法な身体拘束を受けた足利事件のことは、刑事裁判に関わる最近の重大な出来事として、どなたも関心を持っておられると思います。そこにいう、「鑑定」の意味を考えてみましょう。
刑事裁判で、裁判官や裁判員が事実を認定するのは、証拠によります(刑事訴訟法317条)。ここにいう「証拠」は、広い概念で、目撃者などの証人の証言、供述調書などの証拠書類、凶器などの証拠物等々様々なものを含みます。
証拠によって事実を認定する場合、そこには、必ず経験則が働きます。「被告人の部屋から凶器と思われる物が発見された。それなら被告人が犯人である可能性が高い。」とか、「被告人と被害者は、被害者の生前良好な関係だった。それなら被告人が被害者を殺そうとしたとは考えがたい。」といった具合です。こういう経験則を意識的に、あるいは無意識のうちに適用して、証拠から事実を認定していくことになります。
そこで適用される経験則は、通常の場合には、一般の人なら備わっているものですが、専門家以外は持ち合わせていない場合もあります。例えば、証拠として、犯行現場で採取された指紋と被告人の指紋が提出されているときに、被告人が犯行現場にいたか否かを認定するために、それらが一致しているといえるかどうか、一般の人には判断がつきません。指紋という「証拠」によって、被告人が犯行現場に存在したという「事実」を認定するための「経験則」としての、指紋の同一性の判断基準を、一般の人は持ち合わせていないのです。だからといって、そのような証拠による事実認定を放棄することもできません。
そこで、特別の知識経験に基づいた判断を提供し、裁判官、裁判員の事実認定の手助けをするために行われる、専門家による報告が、「鑑定」ということになります。 |