論稿「裁判員制度をめぐる近時の動向―量刑問題を中心に」 筆者:T・S
2014年11月3日
 裁判員制度が施行され、5年半がすぎ、「3年後の見直し」について、法制審総会は、法務大臣の諮問に修正を加えた要綱を法務大臣に答申しました。その内容は、施行以降の主要な課題が見直されていないとの指摘が多くあります。
 本論稿は、裁判員裁判とともに司法改革で導入された被害者参加制度が利用された例を取り上げ、最近の裁判員裁判の量刑についての問題点を解説しています。
 両親による1歳8ヶ月の幼児に対する日常的な虐待と父親による強打での死亡に関して、一審では死亡にいたる関与の程度が大きく異なる両被告(両親)に対して、検察が同一求刑、同一量刑で懲役10年を求刑し、判決は求刑を上回る懲役15年が言い渡しました。控訴審もこれを支持しましたが、最高裁は、2014年7月、一、二審判決を破棄し。父親を懲役10年、母親を懲役8年に減刑しました。
 三鷹ストーカー殺人事件では、被害者の両親が被害者参加制度を利用して、1人の殺人でも死刑を求めましたが、検察は無期懲役を求刑し、懲役22年の判決となりました。
 論稿では、前者の事案の最高裁判決を「如何なる裁判形態であれ量刑の公平性は維持されるべきで処罰感情の過剰な量刑は是正されなければとする一方で、裁判員裁判制度の謳い文句の一つである『市民感覚の反映』に否定的態度もとれないという二律背反の中での苦心の判示」としています。
 後者の事案は、前者の判決の8日後の判決であることに「最高裁判決を強く意識した量刑」であるとしています。
 また、論稿では、2014年5月に開催された「裁判員裁判における裁判官と裁判員の協働について(意見交換会)」での、「裁判員制度の運用に関する有識者懇談会」の委員の酒巻匡氏の量刑評議における裁判官のあり方に関する問題提起が紹介されています。以下が論稿での引用部分です。
 「量刑の判断枠組みは刑法の解釈なのであるから、本来裁判官の専権事項である。(中略)量刑の考え方の大枠の中で、裁判員の方々の感覚や視点が反映されて、刑のばらつきが出るのであれが結構であるが、それでは説明がつかないような量刑の大枠を逸脱する刑のばらつきがでているような事件もあるような気がしており、十分な説明が判決でもされていないような事例もあるように思う。裁判官はプロとして、今のような点については、説明、誘導といわれようとも、説明をする必要があると考えるが、私は、そうした説明に消極になってしまっているようなことはないかと危惧しており、それは本来の制度趣旨に反する。このような私の意見に対する考えを伺いたい。」
 論稿は、「この意見交換会が異例にも記者に公開されたこと、この二か月後に前述の虐待死事件最高裁判決が出されていることを考えると、極めて興味深い取り組みである。」と指摘しています。

「法と民主主義」2014年10月号に所収。筆者は立松彰さん(弁護士)。