書籍『袴田事件を裁いた男』(その2) 筆者:H・O
2014年9月8日
 
文庫『袴田事件を裁いた男』
著者:尾形誠規 
本体価格:700円+税
 
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 熊本元判事は袴田さんに対して死刑を宣告する判決文を書いたことを悔やむ人生を送ることになりました。本書を読んで、裁判員制度が導入され、死刑はプロの裁判官ではない、一般市民も裁判員として被告人に死刑を言い渡す時代になっていることに思いを馳せることになります。
 有罪を立証する証拠がないような袴田事件で、第一審での熊本元判事に続き、ようやく今年村山浩昭裁判長らは袴田さんを死刑にすることを否定しました。しかしこの間、他のプロの裁判官は袴田さんに対する死刑判決を是としてきました。裁判員制度の導入はこうしたプロの裁判官をめぐる状況の中で刑事司法を変える契機になるのか。多くの市民が“疑わしきは被告人の利益に”という刑事裁判の鉄則にもとづいて判断することでそれが可能になり、期待せずにはいられません。
 本書を読んで、裁判員として死刑判決は出したくないという市民がいる問題や裁判員に課せられる守秘義務のことも、あらためて思い起こすことになりました。これらは、裁判員制度改革の重要な論点になるのではないでしょうか。
 
【書籍情報】
2014年6月、朝日新聞出版から「朝日文庫」として刊行。著者は尾形誠規 さん(編集者)。定価は756円(税込み)。
 
*袴田事件に関わって、当サイトでは以前次のような情報を発信してきています。
「大詰めを迎えた冤罪「袴田事件」第二次再審請求審」石井信二郎さん(「袴田巖さんの再審を求める会」共同代表)
「元プロボクサーと再審請求のゆくえ」村井敏邦さん(大阪学院大学法科大学院教授)