小説『司法記者』(その2) 筆者:H・O
2014年6月2日
 
前回からの続き>

 この小説は、司法担当の新聞記者が殺され、その容疑者として他社の司法記者が逮捕される事件が展開します。
 容疑者として逮捕された司法記者は検察の強引な捜査に疑問を持ち、その真相を明かそうとします。政治家と業界の癒着を追及する捜査に加わり張り切っていた特捜検事は実際に捜査に加わってみると、検察が持っている問題点に直面し、憤りと怒りが湧くようになり、特捜の組織のあり方に根本的な疑問を持つようになります。その司法記者と特捜検事の接点から事件がスリリングに展開していくことになります。
 接点になったのは、公共事業に関わる大企業による政治家への贈賄が問われる事件です。司法記者はスクープを狙います。特捜幹部は捜査への国民の支持を得るためにマスコミを活用しようとします。正義のためには事実にもとづく仕事をしなければと思う記者や検事が、それぞれの組織の中で悩み葛藤する姿にはリアリティがあります。
 検察審査会制度が改革され、特捜が扱うような事件への市民の関与が拡大し、その関心が高まっている折、この本が特捜の実態を多くの人々にイメージさせてくれたことの意義は大きいといえましょう。
 
【書籍情報】
2014年4月、講談社から講談社文庫として刊行。著者は由良秀之さん(元検事)。定価は本体690円+税。