論文「『新時代の刑事司法制度』特別部会に対する批判的検討」(その1) 筆者:H・O
2014年1月27日
 
 立命館大学の渕野貴生教授の論文です。
 法務省・法制審議会の「新時代の刑事司法制度特別部会」は、厚労省郵便不正事件での大阪地検特捜部の証拠改竄事件を契機に、2011年に、取調べと供述調書に過度に依存した捜査のあり方を見直し、取調べの可視化などを検討する場として設置されました。ところが、この特別部会は取調べの可視化を限定的なものにする検討を行っています。のみならず、被疑者・被告人の人権保障の原則に逆行するような新たな施策を提起する内容の検討も行っています。法務省は法制審議会の答申を受けて、制度見直しのための法「改正」を目指しており、この特別部会での検討内容を注視しなければなりません。
 渕野教授はこの論文で、まずはこの特別部会が2013年1月に取りまとめた「時代に則した新たな刑事司法制度の基本構想」の基本的性格を明らかにします。すなわち、それが取調べに過度に依存した捜査は日本の刑事手続きの本質的な問題点であるという立場をとらず、むしろこれまでの「取調べによる真相解明」を肯定的に評価している、と分析します。そこでは、糾問的取調べによる虚偽自白が誤判の大きな原因になったことは偶然的と評価され、「現在の刑事手続の基本的な方向性は悪くないのだけど、ちょっと行き過ぎたところがあるので、そこのところを何とかしましょう」という姿勢だとします。そして、その背景に、これまでの刑事司法制度は、基本的に事案の真相解明と真犯人の適正な処罰を求める国民にも支持されているとし、良好な治安維持にも貢献しているという認識がある、と指摘します。
 この論文は「法と民主主義」誌2013年12月号に収載されています。

<つづく>