書籍『司法よ! おまえにも罪がある − 原発訴訟と官僚裁判官』 筆者:H・O
2013年4月29日
 原発の危険性を訴える裁判で住民側が勝訴したのは2件のみです。その多くの裁判は国を相手どる行政訴訟です。その判決の内容を行政学者・新藤宗幸さんが専門的な見地から分析し、その問題点を解明・告発しています。その内容はまさに専門的でじっくりと読み込んでみたいと思いますが、ここではこの問題に関わって新藤さんが述べている司法改革についての提言を紹介したいと思います。
 新藤さんは、日本の裁判所には立法・行政の判断を追認する傾向が強いこと、その背景には最高裁事務総局による裁判官の“統制”があること、などを指摘し、その抜本的な改革の必要性を唱えています。具体的には、高裁に特別な支部を設置し、原発訴訟はそこで高度な科学や技術の専門家を含めて審理する制度を設けることを提言しています。今般の司法制度改革で専門的な検討が必要とされる知的財産部が高裁に設置されたことに倣ったらよいとの提起です。
 原発訴訟には専門的な知識が求められ、そのような知識をほとんど持たない裁判官にはあまり期待できないとの指摘があり、裁判所に原発問題の特別の体制が設けられてその改善が図られることは歓迎されます。同時に、原発訴訟についての裁判所全体の認識、とりわけ最高裁事務総局の認識が現状のままで特別な体制が設けられたら、かえって立法・行政に追随する裁判が温存されてしまうことも懸念されます。
 いずれにせよ、新藤さんが唱えるように、原発問題について、“司法よ! おまえにも罪がある”との国民の認識と司法への異議申し立てが重要となるでしょう。

【書籍情報】
2012年11月、講談社から刊行。著者は行政学者・新藤宗幸さん。定価は本体1,400円+税。

*新藤さんはこの本の中で、こんにちの司法の問題点が生じるようになってきた重要な契機として、1970年代の「司法の危機」を指摘しています。以前、当サイトでは「司法の危機」に直面した裁判官30人の講演の模様を紹介しました。こちら。その講演録集『日本国憲法と裁判官』も刊行されていますので、あらためてご案内します。