書籍『ある離婚訴訟の記録 −体験的裁判所批判論』 筆者:H・O
2011年8月29日

 離婚に関わる裁判の体験にもとづき、裁判と裁判官をめぐる問題状況を明らかにし、その改革課題を問題提起する書です。裁判の判決文の文章を分析し、そこには論理性が欠如していると具体的に指摘しているところに本書の特徴があると言えます。裁判の当事者である著者の感覚は、裁判や法律の世界に慣れた法律家とは若干異なり、法律家たちに対して斬新な指摘・問題提起になっていることが数多くあると思われます。
  裁判官は法律についての知識は持ち合わせていても、いろいろな紛争に関わる具体的な事実の認定についての専門的な教育はあまり受けていないのではないでしょうか。夫婦間のこと、家族生活のことについての諸問題を適切に把握し、適切な紛争解決をはかれる裁判官はそう多くないかもしれません。こうした問題を解決していくためには、やはり裁判に対する市民の注目・監視が重要であり、そのためには裁判の当事者がその経験にもとづいて意見表明していくことが期待されます。
  司法制度改革の結果、離婚訴訟に健全な良識のある人が参与員として参加する制度が始まっていますが、制度が全体的にどう機能しているのかなどにも関心を払っていきたいものです。

 
【書籍情報】
2011年5月、共栄書房から刊行。著者は英真(はなぶさまこと:筆名)氏。定価は本体2,000円+税。