論稿「司法に足りない『聴く力』 −知的障害者に『告訴能力なし』判決から考える」 筆者:H・O
2011年6月27日

 わいせつ行為を受けた女性が告訴したが、裁判所は女性には知的障がいがあり、告訴能力がないとして公訴を棄却した。検察は控訴し、二審は女性の告訴能力を認め、審理を地裁に差し戻した。2011年6月21日、宮崎地裁も女性の告訴能力を認めて一審判決を破棄し、被告人を有罪とした。
  毎日新聞の川上珠美記者がこの裁判の一審・二審の経緯と問題点を、関係者への取材の結果も含めて綴った論稿です。第一審の法廷で、女性は裁判官から告訴状と供述調書の違いについての質問を受けましたが十分に答えられず、このことが一審の判断の大きな理由になったとのことです。告訴状と供述調書の違いを即座に適格に答えられるような教育を受けてきた人はあまりいないでしょう。こんなことがまかり通ってしまったら、「裁判を受ける権利」なんて絵に描いた餅になってしまいます。何よりも、女性には知的障がいがあるのですから、裁判官はより気を配った質問の仕方をし、その受け答えについても慎重に検討すべきです。
  この問題は、単に担当した裁判官の障がい者への配慮不足の問題としてとらえるのではなく、障がいを持つ人びとの「裁判を受ける権利」をどのように保障していくのか、という観点で検討される必要があると思われます。
  この論稿は、「世界」2011年7月号に掲載されました。