論文「日本の司法は原発をどのように裁いてきたか −行政追随の過ちを繰り返さないために」 筆者:H・O
2011年6月20日

 長年原発に関する訴訟を担当してきた海渡雄一弁護士(現在日弁連事務総長)が、これまでの原発関係の裁判の経過と問題点を示し、今後の課題を提起する論文です。
  海渡弁護士は、これまでのほとんどの裁判所は原発の安全性という問題に向き合ってこなかったといいます。その上で、具体的な裁判の経過に則してその判断内容を分析しています。
  1992年、最高裁は伊方原発訴訟において原発の安全性に関わる判断枠組みを示しました。その判決は住民の原子炉設置取消請求は棄却しましたが、一方で、原発の安全審査は「災害が万が一にも起こらないようにする」ためになされなければならない、としたことは評価されます。この判決を受け、2003年、もんじゅ訴訟差戻し後の控訴審判決は原発訴訟において初めて住民の主張を認め、原子炉設置許可処分を無効としました。また、2006年、志賀2号炉金沢地裁判決は国の耐震指針は妥当とはいえないとし、運転の停止を言い渡しました。ところが、これらの判決はその後高裁・最高裁で覆されてしまいました。
  また、国が東海地震や東南海地震が発生する可能性と危険性を明確にし、実際に中越沖地震(2007年)に発生して、柏崎刈羽原発の機器が多数破壊されても、浜岡原発訴訟の一審判決(2007年)は、運転差止めを求める住民の請求を棄却しました。判決には「抽象的な可能性の域を出ない巨大地震を国の施策上むやみに考慮することは避けなければならない」とし、国の安全判断に追随しました。
  海渡弁護士は以上のような経緯を明らかにしながら、裁判所が、安全性が保証されない原発を止める判断をしていれば今回の福島原発事故による悲劇は未然に防止できていたはずだと訴えています。こんにちの司法・裁判所の問題状況を浮き彫りにする論文です。

 
【書籍情報】
「世界」2011年7月号に収載。筆者は海渡雄一弁護士(現在日弁連事務総長)。