書籍『世界の裁判員 −14か国イラスト法廷ガイド』 筆者:H・O
2011年3月28日
 市民の裁判への参加はどうなっているのか、14か国の様子を伝える書です。
  アメリカやイギリスの刑事裁判では、被告人が有罪か有罪でないかは市民の中から選ばれた陪審員のみで決めます(陪審制)。アメリカでは全員一致でなければ有罪を決められません。疑いが残るままで人を有罪にしてはならないとの考え方からでしょう。
  フランスでも、“市民が裁く”ということはフランス革命以来の伝統です。紆余曲折を経て、現在は市民の中から選ばれた参審員がプロの裁判官とともに審理しています(参審制)が、やはり疑いが残るままで被告人を有罪にすることのないようにと参審員は裁判官から説示されます。選ばれた参審員が裁判の前に監獄を見学することになっているのも、このような考え方からでしょう。
  ドイツもフランスと同様に現在は参審制ですが、ドイツも歴史的には市民革命によって陪審制が導入されました。その後に成立したドイツ帝国によって参審制に切り替えられましたが、そこにプロの裁判官だけによる裁判にするという発想はなかったようです。
  お隣の韓国でも、日本での裁判員制度導入と同様に、21世紀に入って裁判への市民参加=国民参与裁判制度が始まりました。そこには軍事政権を倒した1980年代の民主化運動の思想が反映しています。
  “市民が裁く”ということは近代市民革命以来の欧米諸国では当然のことなのでしょう。日本の裁判員制度には改良すべき問題点もありますが、世界史的な視野からその意義を確認する必要性を感じさせてくれる書です。
 
【書籍情報】
2009年6月、日本評論社から刊行。著者は神谷説子さん(ジャパンタイムズ記者)と澤康臣さん(共同通信記者)。価格は2,100円(税込み)。