論文「司法制度改革と民事裁判 −民事裁判は変わったか」 筆者:H・O
2011年3月14日
 この論文は司法制度改革審議会意見書(2001年6月)が民事裁判についてどのような提起をしたのかを整理しつつ、その後の改革の評価を試みるものです。
  筆者である島川勝・大阪市大教授はまず、滝井繁男元最高裁判事の著作『最高裁判所は変わったか −裁判官の自己検証』での“証言”を紹介し、具体的な判決例を挙げながら、最近の民事裁判の判決内容は、従来立法府や行政府に対して「遠慮」がちで消極的だった姿勢を変化させてきていると分析します。その変化には司法制度改革が無関係とはいえないとの考えを明らかにしました。
  裁判制度の改革については、新民事訴訟法(1998年施行)にもとづいて裁判の迅速化がはかられ、その後の司法制度改革によってそれが促進された経緯を整理しています。島川教授は、迅速化それ自体は評価されるとしても、その一方で人証調べの実施率が減っていることを示しながら、「審理が軽くなったのではないか」との問題点を提示しています。そして、民事裁判を、裁判所による職権主義的な指導よりも当事者間で証拠を徹底的に吟味する進め方に変えていくべきとの長期的課題も論及しました。当事者が求める、適正で納得できる民事裁判への課題です。
 
【書籍情報】
『法の科学』2010年号(2010年9月、日本評論社)に所収。筆者は島川勝・大阪市立大学教授。