「法曹養成」―法科大学院の現状と問題点  
2013年4月15日
西 理さん(西南学院大学法科大学院教授)
 私は、40年近くに及ぶ裁判官生活を終えた後、福岡市にある西南学院大学法科大学院で、実務家教員として民事手続法とその関連の授業を担当しているが、それも早くも3年が経過した。そこで、今回は、法科大学院が置かれている現状と問題点を紹介するとともに、法曹養成の在り方を考えてみたい。

1 わが国における法曹養成の在り方を問い直すことは先の司法制度改革の中でも重要な課題の一つであった。そこには、法曹人口の少なさがわが国の法化社会への前進を阻み、事前規制の強い硬直した社会となっているという問題意識があったことは間違いない。かくして、司法試験の年間合格者枠を3000人にまで拡大するといった方針が打ち出された。
 それとともに、かつての司法試験と司法研修所における教育の在り方についても、いたずらに記憶力を試すような試験に堕しているとか、技術教育に傾きすぎているなどと批判され、これでは法曹に求められる柔軟な思考力・創造力を養うことは到底期待できないなどと批判された。

2 これらの問題意識や批判を踏まえて、法科大学院構想が打ち出されたものということができる。
 そこでは、3年コース(法学未修者)と2年コース(法学既修者)が設けられているが、この区別は、大学の法学部出身者か否かではなく、法科大学院の既修者試験に合格したか否かによるのであり、未修者も法学部出身者であることが少なくない。いずれにしても、法科大学院には大学(法学部)を卒業して入学してくることになるから、司法試験受験はかつてよりも少なくとも2年遅くなることになる。その反面、司法研修所における教育期間は、かつての2年間から1年間に短縮されているが、それでも法曹としてスタートするのは最短の人でも1年は遅れることになる。しかも、司法修習生については旧来の給費制から貸与制に切り替えられるなどしたために、法曹の途を志す者にとっての経済的な負担は総じてかなり重くなっており、相当額の負債を背負っている者が少なくないとのことである。
 また、司法試験の試験問題は随分様変わりしたとはいえ、相変わらず難問であり、むしろ旧来よりも難しくなっているのではないかと思われるふしさえある。さらに、法科大学院がいささか乱立気味に設立されたことに加えて、司法試験の合格者枠は2000人から一向に増えようとしないこともあって、法科大学院の課程を修了した者の大多数が司法試験に合格するなどという謳い文句はまさに絵空事に終わった。
 かくして、初期のころの法科大学院に対する熱気は冷め、その受験者数及び入学者数は減少の一途を辿っている。法科大学院としては、優秀で意欲のある学生を獲得することに躍起とならざるを得ない状況である。また、司法試験が今も難関であり続けている以上、学生も司法試験に合格するための勉強に余念がなく、司法試験とは直接関係のない実務科目や隣接科目、展開・先端科目などにはなかなか目が向きにくいのが実情である。

3 これが、多少の程度の差はあれ、おそらくわが国法科大学院の現状であると見てよいのではないかと思われる。特に、地方の小規模校の置かれている状況は深刻である。学生は司法試験合格者を多数輩出する首都圏や関西の有力校に集中しがちであり、その結果、地方の法科大学院は司法試験合格の人数及び比率ともますます低迷するということになり、それが悪循環に陥っている感があるからである。そして、今や、司法修習生の就職難という厳しい現実を突きつけられて年間3000人の合格者という当初の構想自体が正式に見直されようとしている。また、予備試験制度が導入され、法科大学院の課程修了以外にも司法試験受験資格が与えられることになったために、法科大学院はその制度的な基盤を根底から掘り崩されかねないこととなった。
 このように見てくると、新たな法曹養成制度ということで生まれた法科大学院は余りに問題点が多く、お世辞にも成功したとは言えそうにない。そう遠くない将来、法科大学院の配置や総定員の見直しなど、思い切った措置が避けられないのではないかと思われる。
 
【西理さんのプロフィール】
大分地・家裁所長、福岡高等裁判所判事(部総括)を経て現在西南学院大学法科大学院教授