法曹養成、法曹人口増などを検証する  
2012年4月9日
村岡美奈さん(弁護士)

*2012年3月25日のBS11の番組「司法改革10年」の中で村岡美奈弁護士の発言も放映されました。以下は番組の放映に先立って東京経済大学・大出良知教授が村岡美奈弁護士にインタビューした内容に若干加筆したものです。

(大出教授)
 本日はよろしくお願いします。
 さて、村岡さんは弁護士になって何年になりますか。
(村岡弁護士)
 もうすぐ2年半になります。

「考える」「調査する」能力を法科大学院で身につける

(大出教授)
 村岡さんは法科大学院を出られ、新司法試験(現在おこなわれている司法試験こと)に合格されたわけですが、その前には旧司法試験も受験されました。旧司法試験を受験していたときの勉強と、法科大学院での勉強にはどのような違いがありましたか。
(村岡弁護士)
 旧司法試験ではなかなか短答式試験を突破できませんでした。短答式試験に通るにはあまりに膨大な知識量が必要です。その択一試験に通らなければ法律実務家になれないというわけですが、それは私がイメージしていた法律実務家の資質とはちょっと違っていて、疑問を持っていました。その点、新司法試験はだいぶ違うな、と思いました。新司法試験の場合は短答式試験と論文試験の結果を総合的に判断するものとなっていて、択一試験の知識の有無が絶対的な判断の基準になっていません。
(大出教授)
 村岡さんの場合、法科大学院の既修者コースに入り、2年間勉強されました。弁護士になった今、法科大学院での2年間の勉強にはどのような意味があったと思われますか。
(村岡弁護士)
 私は法科大学院制度ができて、その一期生として入学したので、特にその時期には法科大学院サイドにも新しいものにチャレンジしていこうという姿勢が強かったと思います。実務家の方々も教員になられ、授業内容も法律知識をそのまま覚えるのではなく、自分の頭で考えることが求められました。
(大出教授)
 そのような法科大学院の授業は新司法試験の受験にあたってはどのような効果があったのでしょうか。
(村岡弁護士)
 新司法試験の短答式試験は旧司法試験とは違っていて、マニアックな問題とか、反射神経が問われるような問題はなく、どの科目でもひととおり勉強すれば対応できる問題になっていると思います。ひととおりの基本的な知識の理解は法科大学院の授業で十分だと感じています。
(大出教授)
 実際に弁護士として実務に従事してみて、法科大学院で勉強したことは役に立っていますか。
(村岡弁護士)
 法科大学院では判例の勉強が多かったので、実務に近い授業内容だったと思います。いま実際におこなっている実務も、法科大学院のときの判例の検索の仕方、調べ方を思い出しながら、行っています。
(大出教授)
 先ほど、法科大学院では「考える」ということを学んだと話されましたが、「考える」あるいは「調査する」というような学習が法科大学院では重視されてきたと言えると思いますが。
(村岡弁護士)
 実務の現場では、参考書のようなものには書かれていないことを、よく依頼者から聞かれます。そのときには、まずどこから取りかかろうか考えるわけです。その時に、法科大学院の時に学んだリーガルリサーチのことが参考になります。
(大出教授)
 新司法試験合格後、約1年間の司法修習をされました。司法修習はどうでしたか。
(村岡弁護士)
 私の場合は他の人たちとは違うのだと思いますが、率直に言って、司法修習は物足りなく感じました。いわゆる「白表紙」を読んで起案するなどしましたが、実際の実務は、目の前にいる生身の人間である依頼者のお話しを聞きながらすすめられるのですから、私にとっては、修習はあまり役に立たなかったように感じています。

新人弁護士のサポート体制を考える

(大出教授)
 いま弁護士の数が増えて、その就職先があまりない、と言われますが、どのように考えますか。
(村岡弁護士)
 私の場合、法科大学院に入った時点で、自分が目指す実務家像を考え始めました。そして法科大学院の実務家の働き振りを見たりして、そのイメージを固めていき、実際に魅力を感じる実務家がいたら連絡してみようと考えました。新司法試験に合格した後に就職先を探す、というのはちょっと違うように思います。
(大出教授)
 村岡さんの積極的な姿勢は重要だと思います。
 ところで、弁護士1年目の人たちが実務を始めるにあたってはどのようなサポートが必要だと考えますか。
(村岡弁護士)
 できれば事務所に就職して先輩からのトレーニングを受けることは有意義だと思います。事件の解決の仕方や書面の書き方はもちろんのこと、依頼者との関係をどうするか、ということも実際に実務に就いてみないとわからないことが多くあるからです。
 それでも、事務所のボスや先輩から学ぶことが絶対だとは思いませんし、限界もあります。弁護士会全体からのサポートがあって、いろいろな先輩弁護士から学ぶ機会があればいいと思います。
(大出教授)
 人によっていろいろだと思いますが、村岡さんの場合は、自前でなんとかクライアントの方々から納得してもらえるような仕事ができた、と感じるようになるまでどのくらいかかりましたか。
(村岡弁護士)
 いまでもクライアントに初めてお会いするときには緊張しますし、初めて聞くような案件になると、どうしようって悩みますが、だいたい1年くらいやっていくうちに、こんな感じかなってなるように思います。
(大出教授)
 それまでの間は先輩弁護士たちが何らかの形でサポートし、その際事務所の枠を超えて弁護士会などが全体でサポートすることも大事だということですね。
(村岡弁護士)
 そうですね。弁護士には得意分野を持っている人もいますから、いろいろな弁護士のいろいろな仕事の仕方を質問できるような環境があれば、新人弁護士でもやっていけると思います。
(大出教授)
 京都弁護士会ではそのような環境が充実してきているのでしょうか。
(村岡弁護士)
 先輩の弁護士の方々は私たちの質問にも対応してくださり、分野ごとのメーリングリストもあり、質問に答えてくださいます。サポート体制は充実してきていると思います。
(大出教授)
 新人弁護士へのサポート体制も充実しつつある、ということは歓迎すべきことです。
 ところで、いま新人弁護士が法律事務所に就職できず、「即独」する、つまり事務所に就職するのではなく、弁護士登録と同時に事務所を開設する例が生まれてきています。この状況をどう考えますか。
(村岡弁護士)
 私の同期にも「即独」した人はいます。私は、書面の書き方などは研修所でも学べるのですが、依頼者の方々にはどのように接し、どのように連絡や報告をし、どのように信頼関係を築いていけばいいのか、というようなことは実際に先輩の弁護士から直接学ぶ必要があると思っているので、そういう点で「即独」の人たちはどうしているのかなと気になります。
(大出教授)
 「即独」の人たちにはそういう面でのサポートも弁護士会などが組織的にしていくことも重要であると思いますが、どうでしょうか。
(村岡弁護士)
 そのようなことは単発の研修会をしてみても効果的ではなく、日常的な業務の中で学べる体制が検討されるべきだと思います。

裁判員制度、弁護士偏在問題

(大出教授)
 村岡さんは刑事事件にも熱心にたずさわっていて、裁判員裁判も担当されました。実際に裁判員裁判の法廷に立ってみて感じたことをお聞かせください。
(村岡弁護士)
 裁判員のみなさんは、最初の検察官の陳述のときは難しそうな顔をされていましたが、証人尋問のときには真剣に耳を傾けるようになっていきました。やはり、目の前の人が話していることは、調書の朗読を聞くよりわかりやすいのだと思いました。率直に言って、私は、いやいや裁判所に来ている方もいらっしゃるのだろうと思っていたのですが、ぜんぜん違っていました。裁判員のみなさんには積極的に裁判に参加しようという姿勢があって、素晴らしいと思いました。
(大出教授)
 口頭弁論主義ということが裁判員裁判の場でも実を結んできているということではないでしょうか。裁判員は決して裁判の“お客さん”ではなく、まさに判断する主体として十分に対応していけると考えてよい、そう言えるでしょうか。
(村岡弁護士)
 その通りだと思いました。被告人質問のときにはほとんどの裁判員が質問し、二度三度と質問する方もいて、とても熱心でした。
(大出教授)
 裁判員制度の問題は多くの検討課題がありますが、トータルにみて評価できるということだろうと思います。
(村岡弁護士)
 ところで、私は弁護士会の中の弁護士偏在問題に関わる委員会にも所属しているのですが、この問題も重要だと考えています。
 京都府内でも南部に比べて北部には弁護士が少ない現状があります。私は北部の舞鶴というところの法律相談に行くことがあります。1日で15分間の相談を10件こなすことになるのですが、いつもその枠が全て埋まります。相談に来られた方々の中からは、まだまだ話し足りない、と言われます。弁護士のサポートを求める人たちがもっと弁護士にアクセスしやすいような工夫が必要であるように思っています。
(大出教授)
 まだ市民に弁護士へのアクセスが十分には保障されていない、そういう印象を拭えないということですね。
(村岡弁護士)
 やはり京都市内の住んでいる人と舞鶴の方にすんでいる人との間には状況の違いがあります。
(大出教授)
 重要な課題ですね。司法改革の到達状況などについて、限られた時間でしたが、具体的なご経験をふまえて発言していただきました。これからの課題も浮き彫りになったと思います。本日はありがとうございました。