名張事件の現状と問題点  
2011年3月28日
田中哲夫さん(名張事件全国ネットワーク事務局次長)

 このたびの東日本大震災において被災された方々、関係者の皆様に心よりお見舞い申し上げます。
  名張毒ぶどう酒事件は、1961年3月28日の事件発生からちょうど50年。名古屋拘置所の独房から無実を訴え続ける奥西勝さんは、半世紀という長きにわたって無実の罪で苦しめられています。
  この事件の一審は無罪判決でした。それが二審名古屋高裁で一転して死刑に。奥西さんは、死刑確定後も裁判のやり直しを求め続け、2005年4月5日、7回目の審理でようやく再審開始決定が出されました。しかし、この決定は翌年同じ名古屋高裁が取消。そして昨年4月5日、この取消決定が「科学的知見に基づく検討をしたとはいえず、(中略)取り消さなければ著しく正義に反する」として最高裁が審理を名古屋高裁へ差し戻しました。
  現在の争点は、弁護団が提出した、犯行に使われた毒が違っていたという「毒物鑑定」です。検察官は、この新証拠に対して何ら科学的な根拠を示さない反論に終始していましたが、最高裁になって初めて、「飲み残りのぶどう酒のペーパークロマトグラフ試験でニッカリンT特有の成分が検出されなかったのは、その成分の発色の度合いが弱いから」とする「発色問題」を主張するに至りました。最高裁判所の差戻しは、主にこの点での科学(化学)的検証を求めてのものでした。
  しかし、いざ差戻し審が始まると、検察官はこの「発色問題」の主張を現段階では「維持しない」と言い出しました。それならば再審開始決定に対する異議を即刻取り下げるべきであり、裁判所もまた、最高裁が検証の必要性を感じた争点が消えたのですから必要最小限の証拠調べで速やかに再審を開始すべきはずです。
  ところが検察官は、新たに40年以上も前に製造中止となった農薬ニッカリンTやぶどう酒を再製造してペーパークロマトグラフの再現実験を行うことを主張し、裁判所も基本的にはその方向で審理を進めています。検察官が「発色問題」を主張しない以上、問題は解決済みで再現実験など必要ありません。また、事件当時の実験条件は一切わかっておらず、そもそも正確な再現実験など不可能なのです。しかし、そのために奥西勝さんの貴重な時間が無駄に費やされています。裁判所は、昨年11月の進行協議で実験のための鑑定人を選ぶとしましたが、それから4ヶ月以上経った今もなお、鑑定人は決まっていないのです。差戻しから丸1年になろうというのに、実質的な審理は全く進んでいません。
  一方で、検察官が提出していない多くの無罪証拠はそのままです。大阪地検特捜部の問題で、無実の人を犯人に仕立て上げていく検察機構の体質が明らかになりましたが、この事件でもこうした証拠隠しに加え、事件関係者の供述が奥西さんに不利になるように事件発生から2週間あまりして一斉に変更されました。また、二審に提出された王冠の傷跡鑑定は不正鑑定であったことが5回目の再審審理で明らかとなり、さらに実況見分調書に添付された写真の日付が改ざんされた疑いも指摘されています。
  事件発生から50年。35歳で逮捕された奥西さんは今年85歳となりました。一刻の猶予もありません。時間をかけて審理するならせめて奥西さんを釈放すべきです。私たちは、裁判所が検察官の不正義や引き延ばしを許さず、一刻も早い審理で再審を開始することを求めています。
  4月5日(火)には、東京・文京シビックセンター小ホールにて、『いますぐ再審無実を!!』奥西勝さんを死刑台から取り戻す4.5集会を予定しています。松元ヒロさん、やくみつるさん、江川紹子さんと弁護団を迎えての集会で、18時15分より開演となりますので是非ご参加いただけるようお願い致します(参加費1000円自由席)。