法科大学院教育と実務を語る(新人弁護士座談会)(2)  
2010年4月19日
大浦郁子さん(弁護士)
大谷直さん(弁護士)
松縄昌幸さん(弁護士)
村井朗子さん(弁護士)
大出良知さん(進行役・東京経済大学現代法学部教授)
前号からの続き>
身近で役立つ司法へ

大出教授
(大出教授)
皆さんは弁護士になったわけですが、実際になってみて、弁護士の仕事や生活は当初イメージしていた弁護士像と重なっているのでしょうか。あるいはギャップもあるのでしょうか。まだ3ヶ月という時期ですが、司法がもっと市民に身近な存在になっていく課題についての意見も含めて、率直なところをお聞かせください。
(村井さん)
私の場合は、だいたいイメージしていた感じです。ただ、依頼者のために誠意を持って仕事に取り組んでいるつもりですが、本当にその人のために尽くすとはどういうことなのかを考えさせられています。被疑者を保釈できればそれでいいのか、刑を軽くできればそれでいいのか、もっと総合的に、あるいは長期的にその人のことを考えてサポートする必要があるのではないか、等々のことを深く考えなければならないのだと、いま感じています。
大谷さん
(大谷さん)
私の周りには弁護士や弁護士にお世話になった人がいなかったことから弁護士を志すまでは自分とは縁遠い人々と感じていました。そして、弁護士になった今でも市民と弁護士の間には距離があると感じています。ただ、同時に感じることは、現在多くの弁護士が市民にとってより身近な存在になろうと努力をしているということです。私も市民の方々に気軽に相談してもらえるような弁護士を目指していきたいと思います。
(松縄さん)
弁護士というとプライドの高い、近寄りがたい雰囲気の人たちというイメージがあると思います。私も、弁護士の知り合いが周囲にいなかったこともあり、そういうイメージを持っていました。実際に弁護士になってみると、言い方は悪いかもしれませんが、その仕事は世間でイメージされているよりも泥臭いものだと感じています。弁護士の仕事には、当然法律の知識は必要ですが、真っ当な倫理観とか、人とのコミュニケーション能力などが求められると痛感します。要するに、人として当たり前に求められる仕事の仕方をしないと依頼者の信頼も得られないと思います。
村井さん
(大浦さん)
私は弁護士になってみて、弁護士が解決できることは依頼者の人生の一部分に過ぎず、人生のすべてを解決することは難しいと感じました。だからこそ、その解決できる部分については精一杯努力しなければならないと思っています。しかし、依頼者の方の中には、弁護士は何でもできると思っていらっしゃる方も多く、自分の認識とのギャップに驚くこともあります。
(大出教授)
弁護士に法的な知識が求められることは当然ですが、依頼者の話を聞くヒヤリングの能力や相手との交渉能力などが重要ということでしょうね。実務教育が法科大学院で取り入れられたのもこのような趣旨からだったのです。
(大谷さん)
弁護士を含め法律家が市民にとってより身近な存在と感じてもらえるために今後法教育、特に学校における法教育が重要になると思います。様々なトラブルの解決のために法律が存在し、法律家がいるのだということを市民や子どもたちに知らせる教育が必要だと思います。
(大浦さん)
多くの市民が、弁護士のところに行くのは勇気がいる、と思っているのが現状だと思います。私も、市民と司法との距離を縮めるには、やはり早い段階からの法教育が必要だと思います。一方で、大都市以外の多くの地域では弁護士数が少ないことも、市民と司法との距離感につながっていると思いますので、もっともっと弁護士を増やす必要があると思います。私は修習地が旭川だったので、まだまだ弁護士過疎の地域があることを痛感しました。
松縄さん
(松縄さん)
私も学校での法教育の充実が重要だと思います。私もそうでしたが、例えば刑事裁判のことを学校で学んでも、被害者とか加害者とかも、自分とは別の世界の話だという感覚で終わってしまっているように感じます。裁判員裁判が行われている現在、将来の裁判員候補である子どもたちにもリアリティを持って感じ、考えられる教育が必要だと思います。
(村井さん)
ちょっと別の角度からの意見になりますが、私は何かを調べる時に、まず見るのはネットです。若い世代の多くがそうだと思います。弁護士の誇大広告などはいけませんが、ネット等でどこにいけばどんな相談を受けてもらえるのか、費用は大体どのくらいなのか等、法的サービスについての情報をもっともっと市民に発信して身近に感じてもらうことが必要だと思います。
(大出教授)
インターネットでの情報発信を充実させることは必要です。同時にネット以外の方法での情報発信も必要ですよね。
大浦さん
(大谷さん)
以前「WEB市民の司法」で当時法テラス佐渡法律事務所に所属していたスタッフ弁護士の冨田さとこさんが社会福祉とのネットワークを作ることが市民の司法アクセスという観点においても効果的であったと紹介されていました。私も弁護士が例えば市民団体、NPO法人、行政等と連携しネットワークを作り、その中で情報発信していくことが市民の司法アクセスを容易にするために効果的だと思います。
(大浦さん)
弁護士が市民にとってもっと身近な存在になるためには、弁護士の意識改革も必要だと思います。弁護士の中には、依頼者の相談について弁護士のところにくるほどの問題ではないと感じる人もいるようですが、市民はみなトラブルや悩みを抱えて弁護士のところに来るのですから、それには誠実に向き合う姿勢が必要だと思います。何か困ったことがあったら弁護士のところに行こう、と思ってもらえるような存在になることが必要だと思います。

市民をサポートする弁護士を増やす

(大出教授)
やはり市民の中には様々な法的なトラブルがあるわけで、それをサポートする弁護士がもっともっと増えなければならないのだと思います。
最後に、4人の皆さんの今後の弁護士としての活動への抱負をお聞かせください。
(村井さん)
一つひとつの事件に正面から向き合い、依頼者に満足してもらえるような仕事を心がけ、地域に根ざした弁護士になっていきたいと思っています。
(大谷さん)
法テラスのスタッフ弁護士という立場を生かしつつ、様々な団体と連携し弁護士が市民の皆さんにより身近な存在となれるよう努力をしていきたいと思います。
(大浦さん)
常に市民・依頼者の話に謙虚に耳を傾けて仕事をしていきたいと考えています。また、女性の弁護士として期待される役割も果たせるようになっていきたいと思います。
(松縄さん)
勝てそうもない事件を担当することも多いでしょうが、これくらいでいいだろうと妥協せずに、依頼者の立場に立って何とかならないかと、とことん考え悩む弁護士でありたいと思います。
(大出教授)
最後に力強い抱負を語っていただきました。これからも市民に役立つ司法の実現に向けてともに頑張っていきたいと思います。
今日はどうもありがとうございました。