法科大学院教育と実務を語る(新人弁護士座談会)(1)  
2010年4月12日
大浦郁子さん(弁護士)
大谷直さん(弁護士)
松縄昌幸さん(弁護士)
村井朗子さん(弁護士)
大出良知さん(進行役・東京経済大学現代法学部教授)
困りごとを抱える人々をサポートする

大出教授
(大出教授)
司法が、もっと市民に身近なものになり、もっと市民に役立つものになる必要があると考え、私たちは「WEB市民の司法」でさまざまな情報発信を進めています。本日は、弁護士になって3ヶ月余という新人の皆さんとともに考えていきたいと思います。
さて、まずは皆さんが弁護士を志した理由からお聞きします。
(大谷さん)
私は現在、養成中のスタッフ弁護士です。学生の頃、人の役に立ち、社会に貢献できる仕事をしたいと考え、弁護士になることを目指しました。新司法試験に合格した後、司法過疎という問題に関心を持つようになり身近に弁護士がい ない、経済的に苦しく弁護士費用が払うことが困難であるといった理由で必要な法的サービス
大谷さん
を受けることができない人のために自分ができることはないかと思いスタッフ弁護士になりました。
(村井さん)
私は学生時代に留学し、国連の職員や国際取引等なにか外国と関わる仕事をしたいと考えるようになり、留学後、渉外系の法律事務所の秘書のアルバイトをしました。ところが、企業との取引を扱う仕事は、一人ひとりの市民に向き合うという私が抱いていた弁護士像とはかけはなれていました。今、目の前にいて困りごとを抱ええている人をサポートする弁護士になりたいと思うようになり、私の地元である多摩の地で、地域に密着している現在の法律事務所で弁護士を始めました。
(松縄さん)
私は学生の頃、自分には企業の経済的利益を最優先に考える会社勤めは向いていない、何か専門的な知識を身
村井さん
につけたプロフェッショナルになりたい、と考えました。そして人々をサポートできる仕事がしたい、という思いから弁護士を目指すことにしました。
(大浦さん)
私は大学卒業後に製薬会社に就職し、2年間、病院の医師などを対象に医薬品の営業活動をしました。その際、医療現場を見る中で、もっと患者さんの権利が守られる必要があると思うようになり、ちょうど法科大学院ができるという時期だったこともあって、法科大学院に入学して弁護士を目指すようになりました。

法科大学院で学んだことを実務に活かす

(大出教授)
4人の皆さんが、いずれも社会に役立つ弁護士を目指されたということがわかりました。
さて、今回出席していただいた4人は、いずれも法科大学院で勉強し、その後の新司法試験に合格されました。市民の役に立つ法律家を増やし、そのための教育を充実させることを目的に法科大学院がつくられたのですが、法科大学院で学んだことはいまの仕事にどの程度役に立ったと思っていますか。
松縄さん
(大浦さん)
法科大学院での勉強は基本書と判例が中心で、当初はこの勉強がどのように実務に役立つのか、趣旨がわからない時もありました。しかし、特に実務家教員の方々から、実務の重要性や実務家になるにあたって身につけるべきことなどを教えて頂き、法科大学院での勉強の重要性がわかるようになりました。法科大学院で学んだことは、その後の司法修習でも大変役に立ちましたし、鮮明に記憶しています。
(松縄さん)
私は以前、旧司法試験に向けた勉強もしていましたが、法科大学院では自分の頭で考え、それを人に説明する能力を身につける重要性を理解できたと思います。それは今の仕事にもつながっています。
大浦さん
(村井さん)
私の法科大学院では、院生が実務家と一緒に、法律相談に出たり実際の事件を引き受けて議論したりする実務科目があり、そのときの経験が今、直接役立っています。また、選択科目として履修したエクスターンシップで実務家の仕事に接する中で、たくさんの刺激を受け、勉強へのモチベーションも高まりました。いま、そのときお世話になったエクスターン先で働いています。
(大出教授)
法科大学院では理論と実務を架橋する教育をすることなりました。法科大学院ができる前は、旧司法試験の勉強の中で実務にふれる機会は基本的にありませんでした。したがって、法科大学院での実務の教育は効果が上がったと考えてよいのでしょうか。
大谷さんはいかがですか。
(大谷さん)
私は松縄さんと同じく、法科大学院入学前は旧司法試験に向けた勉強をしていました。旧司法試験に向けた勉強に慣れていたこともあって、法科大学院入学後、勉強方法が変わり、これで新司法試験に合格できるのだろうかと正直、不安感を感じたこともありました。
法科大学院における実務の教育ですが、私が通った法科大学院では実務よりも法律の基本知識を学ぶことが重視されていたように思います。
(松縄さん)
私が通った法科大学院は実務の教育にも力を入れていました。模擬裁判は全員必修でした。
(村井さん)
私が通った法科大学院も実務の教育には熱心でしたが、やはり新司法試験で合格していくためには法律の基本知識を修得していくことが大事だということで、実務教育の比重をどうするべきか、教員の側も院生の側も試行錯誤だったように思います。
(大浦さん)
私は旧司法試験の勉強はしていなかったので、法科大学院のカリキュラムを消化することに専念していました。その結果新司法試験に合格することができましたが、中でも、裁判官・検察官・弁護士それぞれの実務家教員から実務系の科目を教えて頂いたことはとても役に立ったと思います。私が通った法科大学院でも模擬裁判は必修でした。
(大出教授)
やはり法科大学院ごとに実務教育の比重や方法にはバラつきがありますね。新司法試験の問題も旧司法試験の問題よりも実務を理解していないと解けないものになってきています。引き続き、理論と実務を架橋する教育の充実が求められるでしょう。
ところで、司法試験の合格者数が増え、その多くが法科大学院を修了し、新司法試験に合格した人たち、ということになりました。旧司法試験に合格した先輩の弁護士などと接していて、何か違いを感じることはありますか。
(大谷さん)
法科大学院では様々な法律文献、判例を検索する機会が多かったので、必要とする法律文献や判例を検索する能力は、比較的高いのではないかと思います。
(大浦さん)
私は、書面を作成したり、調べ物をしたりする際には判例や文献のデータベースを活用するように心がけていますが、事務所では検索システムを十分活用できているとは言い難い面もあるかもしれません。
(大出教授)
法科大学院ではインターネットの環境が整備され、データベースでの検索など法情報の収集方法などの教育も重視されてきていますよね。

<続く>