被告人の責任能力  
2010年3月22日
 刑法は、一定の行為を禁止し、その違反に対して刑罰という制裁を予告することで人々が犯罪を犯さないように動機付けをしています。そのため、このような動機付けが可能とは言えない場合には、犯罪にあたる行為を実行した人であっても、処罰をすべきではないということになります。
このような見地から、刑法は、「心神喪失者の行為は、罰しない」(39条1項)と規定しており、このように行為時に心神喪失であった場合には、刑罰を課さないこととしています。このような規定に該当しないで処罰されうる適格を「責任能力」といいます(「能力」という言葉を使っていますが、程度が問題となる概念ではなく、「あるかないか」が問題となると考えてください。)。
刑事裁判では、弁護人が、被告人は犯罪にあたる行為を実行した時点で心神喪失の状態にあったと主張して、刑法39条1項によって無罪であると争う場合がしばしばあります。その場合、一般的には、精神医学の専門家等による精神鑑定が行なわれ、それを参考にして、裁判官が、責任能力の有無を判断するということになります。
なお、心神喪失の状態に至ってはいないが、完全に責任能力を認められない状態を「限定責任能力」といい、刑法39条2項は、「心神耗弱(こうじゃく)者の行為は、その刑を減軽する」と規定しています。