逮捕  
2010年3月8日
 逮捕は、被疑者の人身の自由を侵害する刑事手続上の拘束方法です。日本国憲法は、拘束への着手を「逮捕」として規定し、原則として裁判官の発する令状(逮捕状)を要求しています(33条)。この逮捕状による逮捕が、令状逮捕あるいは通常逮捕と呼ばれ、原則的な方法になっています(刑訴199条)。
逮捕が許されるのは、被疑者が「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」のある場合であり(刑訴199条1項)、「逃亡する虞」あるいは「証拠隠滅の虞」がある場合ということになります(刑訴規則143条の3)。憲法は、例外として現行犯逮捕を認めていますが、刑事訴訟法は、それに加えて緊急逮捕という逮捕方法も例外として規定しています(刑訴法210条)。現行犯逮捕を、令状を必要としない例外としているのは、現に犯罪行為に関わっている者を拘束するからです(刑訴212条)。ですから、「何人でも」すなわち、私人でも逮捕できることになっています(刑訴213条)。緊急逮捕は、令状逮捕と比較すれば、急速を要する場合であること、重大事件であること、嫌疑が充分であることなどが要件として加重されていますが、事前に令状が出ていることは要求されていません。最高裁は、理由を示さず合憲としていますが、事前に裁判官の審査が行われていない以上、この逮捕方法は憲法違反であるという意見は根強く存在しています。
逮捕は、通例、引き続き短時間の拘束を伴うことになりますが、憲法は、この拘束を「抑留」として(34条)、拘束への着手の「逮捕」と区別していますが、刑事訴訟法は、この短時間の拘束をも含めて逮捕として規定しています。そのことは、憲法が「抑留」の前に、拘束の理由を「告げ」、「弁護人に依頼する権利」を与えることを要求していますが、刑事訴訟法が、逮捕直後に同様の要求していることから確認することができます。
その拘束可能時間は、誰が逮捕するかによって異なります。警察関係者が逮捕した場合には、警察官が48時間、検察官が24時間、合計72時間拘束できます(刑訴203条1項、205条1項・2項)。検察関係者が逮捕した場合には、48時間です(刑訴204条1項)。この時間の制限は、いずれの逮捕方法の場合にも同様です(刑訴211条、216条)。なお、現行犯人を私人が逮捕した場合には、その逮捕した時点から拘束時間は起算されます。
また、緊急逮捕を行ったときには、「直ちに」裁判官に令状を請求しなければなりませんし、令状が発せられなかったときには「直ちに」釈放しなければなりません(刑訴210条)。制限時間内に釈放しない場合には、検察官は、裁判官に勾留を請求するか、公訴を提起しなければなりません(刑訴204条1項、205条1項・4項)。
このような逮捕を、独自の拘束方法と考えるのが実務の理解です。この理解によれば、72時間は持ち時間であり、逮捕時間中の取調べも自由だということになります。これに対して学説からは、強い異論があります。逮捕は、さらに長期の拘束である勾留を必要とするかどうかを判断するための短時間の拘束にすぎないということになります。勾留の前には必ず逮捕しなければならないことになっているからです(逮捕前置主義、刑訴207条1項)。
また、逮捕に対する不服申立が認められていないことや、被疑者に保釈が認められていないことも指摘されます。さらに、72時間という制限時間も、逮捕後に行わなければならないことは拘束理由の告知、弁護人依頼権の告知、弁解の聴取だけですから(刑訴203条1項、204条1項)、不測の事態による違法状態を避けるための設定だということになります。それに、取調べの必要性が逮捕の要件になっていないといったことも重要ということになります。このような理解からすれば、法的に必要的に要求されている手続を可及的速やかに経て、釈放するか、勾留を請求するべきだということになります。