論稿「刑事弁護の心」 筆者:T・S
2014年11月17日
 2006年10月から、刑事司法改革のひとつとして、被疑者国選弁護が始まりました。本論稿は、筆者が実際に被疑者国選弁護を担当した事件を紹介するとともに、刑事弁護の意義を多面的に解説した「法学セミナー」2014年11月号の特集「刑事弁護入門」の論稿です。
 2007年の事件では、覚醒剤密輸事件で明らかに無実の在日中国人女性が勾留され、弁護士が不服申立てなど手を尽くしたが、勾留期間も延長され、最終的には勾留期限の3日前の釈放になりました。満足のいく結果ではなかったが、起訴前の勾留取消しが実現したことには意義があったといいます。
 2009年の事件は、過去10年に3回の窃盗によって服役があり、今回自転車窃盗の現行犯で逮捕勾留され、公判請求されたら、3年以上の服役を余儀なくされる事案です。それを、検察管や被疑者の雇い主側との交渉により、雇用も継続され、被疑者の将来性に託し、罰金刑で済ました事案です。
 以上のふたつの事案は、被疑者国選弁護よって、被疑者の権利や利益が擁護された例ですが、筆者は、「このような事案はむしろ少ない」と、推定無罪の法理などの「大原則からほど遠い現実」と司法の実際を批判しています。
 光市母子殺害事件の上告審から担当した弁護団の弁護士に対する懲戒請求が、一弁護士のテレビ番組での発言によって煽られ、集中して起きました。
 筆者は、この件で刑事事件、とりわけ弁護人の役割が市民の理解を得られていないことに危機感を持ち、弁護士有志とともに、弁護活動人の役割に理解を求めるために「弁護活動に対する違法な攻撃を許さない緊急アピール」を約530人の弁護士が賛同のもとに発表しました。
 そこでは、人権規約、国連基本原則、日本国憲法を根拠に被疑者・被告人の援助者としての弁護人の役割をあきらかにしています。
 筆者は、さらに、「国家は何故に、国家が訴追の対象とした、国家と対峙する立場となる『刑事犯罪人』に、刑事司法手続での援助者が付くことを容認しているのだろうか」と掘り下げて、刑事弁護人の存在意義を解説しています。

 この論稿は、「法学セミナー」2014年11月号に所収。筆者は前田裕司さん(弁護士)。