論稿「『無知のヴェール』から日本の刑事司法を考える」 筆者:H・O
2014年8月25日
 
 アメリカ・ハワイ大学ロースクールのマーク・A・レヴィン教授の論稿です。アメリカの刑事司法制度と比較しながら日本の制度の問題点を指摘しています。
 まず、アメリカの学生が、無実の青年が有罪になる日本映画『それでもボクはやってない』を見ると、日本の刑事司法制度がいかに不公正なものかと驚き、激怒するということが紹介されます。そしてレヴィン教授は、日本の刑事司法制度の問題点として、とりあえず自白偏重の取調べ、死刑判決の手続きにおける正義の欠如、被告人の権利の不十分さ、の3点を挙げます。レヴィン教授はこうした日本の刑事司法制度の深刻な問題点が残されている背景には日本人の意識の問題もあると述べます。それは日本人の少数者に対する考え方です。
 レヴィン教授は、アメリカ社会では差別されている有色人種の主張には耳を傾ける土壌があるが、日本では少数人種の問題はほとんど観念されておらず、少数意見に配慮するということが極めて不十分であると指摘します。被疑者や被告人というのも社会のなかでは少数であり、日本人の多くはその人たちのことについて想像力を働かすことが苦手なのではないかということでしょう。そして、そうだとすれば、日本人は「無知のヴェール」、つまり自分がどうなるのかわからない状態で、正義というものについて考えてみる必要があるのではないかと問題提起しています。

 この論稿は雑誌「世界」2014年6月号に収載されています。