小説『司法記者』(その1) 筆者:H・O
2014年5月26日
 
 司法担当の新聞記者が殺され、その容疑者として他社の司法記者が逮捕される事件が展開する小説です。タイトルのとおり、司法記者の仕事が大きなテーマですが、ここでの司法記者の取材の主たる対象は検察の特捜です。スリリングな展開の中で、特捜の仕事と実態、そしてその暗部が抉り出されます。
 特捜と聞くと多くの人は、政治家や高級官僚、大企業幹部などの不正を暴く、格好いいイメージが浮かびます。もっとも、証拠であるフローッピーのデータの改竄までおこない、無実の厚労省幹部を起訴したことが発覚し、特捜への不信感はいま一気に高まっています。国民は巨悪を摘発する特捜に期待をしつつ、失望もしている、今はそういう状況かもしれません。こうした状況の中で、特捜の検事はどんな仕事をしているのか、それはどんな人たちで、どんな生活をしているのか、ということを知りたい人にはお奨めの本といえそうです。小説ですが、特捜とそこではたらく検事の実際の姿をかなり正確に描き出していると思われます。具体的には、多くの特捜検事が巨悪を許さないという正義感に燃えて職務にあたっていること、ただ時には無理な捜査を強引に進めることになってしまったり、それが正しくチェックされなかったりすること、特捜検事も当然のことながら一人の人間として様々な弱点や悩みを抱えていること、等々が炙り出されます。

<続く>
 
【書籍情報】
2014年4月、講談社から講談社文庫として刊行。著者は由良秀之さん(元検事)。定価は本体690円+税。