講演録・対談録「裁判と憲法 −裁判員制度・死刑制度を考える」 筆者:H・O
2013年9月23日
 2012年10月8日に法学館憲法研究所が開催したイベントでの、村井敏邦・大阪学院大教授(法学館憲法研究所客員研究員)による標題の講演と、その後の浦部法穂・法学館憲法研究所顧問との対談録です。
 村井教授のお話しは、刑事裁判の目的は、刑罰権の実現ではなく、罪を犯していないのに処罰されることのないようにするなど、刑罰権を制約することではないか、との根源的な問題提起から始まりました。そして、裁判員制度が、刑事裁判がそのような基本的な役割を果たせない状況の中で導入されるに至った経緯を明らかにしました。
 村井教授は、司法への国民参加という裁判員制度の積極的な面を評価しつつ、改善されるべき問題点を冷静かつ緻密に分析しました。それは、被告人に裁判員裁判を選択する権利を保障すべきこと、評議の多数決は「疑わしきは被告人の利益に」の原則にもとづき絶対多数に見直されるべきこと、裁判員になることへの良心的拒否権が認められるべきこと、等々についてでした。死刑制度が存続している状況の中で裁判員制度が始まっていることにも着目した問題提起に、イベント参加者の多くが深く考えさせられることになりました。
 村井教授の講演後の村井・浦部対談はスリリングな内容になりました。浦部・法学館憲法研究所顧問は裁判員制度の意義を肯定した上で、司法への国民参加の憲法上の位置づけを理論的に解明しながら、村井教授に問いました。そのことへの村井教授の回答は司法への国民参加の重要性をより具体的に明らかにするものとなりました。
 また浦部顧問は、欧米の多くの国で陪審制が採用されているのは、“庶民の揉め事は庶民が裁く”という「同輩による裁判」という考え方が歴史のなかで確立してきたことなども明らかにしながら、人々が裁判というものとそれへの関わり方をより深く考える必要性を痛感させてくれました。


 この講演録・対談録は「法学館憲法研究所報」8号(2013年1月発行)に収載されています。