論文「司法行政について」(その3) 筆者:H・T
2012年11月26日

前回からの続き>

 連載の最終回では、2001年の司法制度改革における司法行政面の改革の意義と問題点を2点論じています。すなわち、改革の第1の柱の「人的基盤の拡充」のうちの「裁判官制度の改革」と、第3の柱である「国民の司法参加」の中の「裁判官選任過程への参加と裁判所運営への参加」です。

 前者については、憲法は裁判官について10年の任期制とそれを前提とした再任制度などを採用していることから法曹一元制を予定しているものと思われるところ、今回の改革でもそれが採用されなかったのは遺憾であると評しています。しかし、採用されなかった以上、法曹一元のための条件整備を真剣に考え、推し進める必要があると論じています。その現実的な方策として既に試みられている弁護士任官を推進するための改善策、弁護士が非常勤の裁判官として裁判所に勤務する制度の創設などを提案しています。改革意見書で提言されている、判事補が裁判官の身分を離れて弁護士など他の法律専門職の経験を積む制度は法曹一元の精神を部分的に体現するものとをして画期的だと評しています。なお、裁判官の人事評価の透明性は確保できたが、昇給や転任など肝心の人事行政が透明性・客観性のあるものでなければ意義は大いに減じれれると指摘しています。

 後者については、全国各地の地裁に地裁委員会が置かれることになり、地域の市民が地・家裁の運営に意見を述べることができるようになったことも画期的であると評価しています。但し、委員会の責任者(委員長)は地裁所長が就任することが予定されていました。これでは実が伴わず、問題視されています。著者は大分地裁所長時代には最高裁の方針には従わず単なるオブザーバーとして出席しました。他には釧路地・家裁の例があっただけのようです。

 最後に、最高裁裁判官の任命に当たっては、「裁判官推薦委員会」の設置と、15人の裁判官のうち10名は弁護士出身者が占めるべきことを提案しています。

 
【論文情報】
著者は西理氏(大分地・家裁所長、福岡高等裁判所判事(部総括)を経て現在は西南学院大学法科大学院教授)。判例時報2131、2143、2144各号(判例時報社)に所収。