論文「司法行政について」(その1) 筆者:H・T
2012年11月12日

 判例時報の今年の4月21日号から3号に渡って連載された論文です。筆者は、大分地・家裁所長を経て福岡高裁を最後に昨年12月まで約40年間の裁判官生活を送り、現在は法科大学院で教鞭をとっています。裁判官として、裁判や司法行政、あるいは憲法の理念を実現する活動に関わった経験を踏まえつつ、司法行政について戦前の制度から現在進められている制度改革のあり方についてまで詳細に論じています。筆者の問題意識は、法曹一元制を理想としつついかに司法権の独立を実現するかにあります。3回に分けて紹介します。

 まず、戦前の裁判所には検事局が付置され、しかも裁判所は司法大臣の監督下に置かれていたことなどから、司法権の独立の点では致命的な弱点を有していたこと、この弱点が裁判官の任用制度におけるキャリアシステムと結びついて裁判官が上司に従属するなどの弊風を内包していたことが紹介されています。

 新憲法施行後は、憲法は司法権の独立と裁判官の職権の独立を謳ったが「肝心の中身は変わらなかったと言うほかはない」と論じています。弁護士会や司法省内に設置された審議会などから法曹一元制の採用が提案されていたにもかかわらず将来の問題とされ、法曹一元制を採用する絶好の機会を逸して戦前とほとんど変わらないキャリアシステムが維持されたことに、司法制度が官僚制を脱却し得なかった根本的な限界を指摘しています。旧帝国憲法下で戦争の遂行に協力した裁判官だった人たちが「裁判官の戦争責任」を問われることなくそのまま裁判官で在り続けたからなおさらであるとのことです。

(続く)

 
【論文情報】
筆者は西理氏(西南学院大学法科大学院教授)。判例時報2131、2143、2144各号(判例時報社)に所収。