論文「志賀原発二号機訴訟判決とフクシマ後の司法の責任」 筆者:H・O
2012年5月21日

 これまで原発の運転停止を求める訴訟が数多く提起されてきましたが、住民側が勝訴したのは2件しかありません。そのうちの一つが志賀原発二号機訴訟第一審判決で、筆者の井戸謙一さんはこの裁判の裁判長として住民を勝訴させました。2006年3月24日のことです。
 ところが、この判決は高裁、最高裁で覆され、その最高裁決定がなされた約半年後、福島第一原発事故が起こってしまいました。
 総じてこれまでの司法は原発推進の政府や事業者、専門家の考え方を擁護してきました。それが福島第一原発事故につながってしまっていることを井戸さんは憂慮します。
 くわえて、井戸さんは「フクシマ後」の裁判所の動きについての警鐘を発します。ゴルフ場運営会社が東京電力に対して除染や損害賠償を求めた申し立て、郡山市の子供たちの市への集団疎開の申し立て、これらに対して裁判所は被害者の怒りや苦悩に正面から向き合っていないと批判します。
 井戸さんは、原発問題においても、司法が国民の信頼を取り戻さなければならないと力説します。志賀原発二号機訴訟第一審判決は政府の原子力政策に影響を与え、判決の半年後に原子力安全委員会の耐震設計審査指針が見直される、ということもありました。司法のあり方・役割をあらためて考えてみたいものです。

 
【論文情報】
雑誌「世界」2012年6月号に収載。筆者は井戸謙一氏(元裁判官、現在弁護士)。