講演録「『それでもボクはやってない』と刑事裁判の実際」 筆者:H・O
2012年4月9日

 映画「それでもボクはやってない」は痴漢の犯人に間違われてしまった青年があれよあれよという間に有罪にさせられていった映画です。この映画の監督・周防正行さんが、映画をつくった思い、狙いなどを大出良知教授(東京経済大学)の質問に答えながら語ったものです。
 えん罪事件に巻き込まれた被告人が無罪を勝ち取るような小説を読んだり、そのような映画を観た人は胸のすく思いをすることがあります。しかし周防監督はそのような作品にするのではなく、観た人が、なぜ被告人は有罪なんだ、おかしいではないか、と不愉快な思いをするような映画にしたかった、ということを明らかにしています。いったん起訴されると99%の被告人が有罪になり、多くの無辜が罰せられている、その日本の刑事裁判の現実を知らせたいからだと述べています。
 自白偏重の捜査のこと、裁判官の育成の仕方の問題点、なども含めて周防監督は語っています。刑事訴訟法の本を何百冊と読み、実際の裁判を200回以上傍聴しながら作品をつくりあげた周防監督のお話しには重みと説得力があります。

 この講演録は東京経済大学「現代法学」第22号(2012年3月)に収載されています。