書籍『気骨の判決 −東條英樹と闘った裁判官』 筆者:H・O
2011年7月25日

 アジア太平洋戦争に突き進んでいった時期に、人びとが戦争遂行に異を唱えることは至難でした。多くの裁判官もまた、国策に協力させられることになりました。
  1942年に実施された衆議院選挙は、事実上政府が特定の候補者を推薦し、国民はその候補者に投票せざるを得ないように仕向けられました。いわゆる「翼賛選挙」でした。当時の大審院判事・吉田久は担当した鹿児島県第二区の選挙を無効とする判決を言い渡しました。政府からの圧力や特攻警察の監視などに負けることなく、決死の覚悟で判断したのです。吉田久の勇敢な行動と司法・裁判への思いが綴られた本です。その後制定された日本国憲法には「司法権の独立」が盛り込まれましたが、その際吉田久が重要な役割を果たしたことも紹介されています。
  戦争の時代に、いかに司法権そして三権分立が形骸化していたか、同時に心ある裁判官も少なからずいたこと、などがわかります。こんにち、不十分ながらも「司法権の独立」という原則が成立していますが、それを守り主張した先達がいたという歴史を語り継いでいきたいものです。
  司法に関心を寄せる多くの市民と法曹関係者に読んで欲しい一冊です。

 
【書籍情報】
2008年、新潮社から「新潮新書」として刊行。著者はNHK記者である清永聡氏。定価は本体680円+税。