論文「司法支配制と日本の特殊な違憲審査制」 筆者:H・O
2011年5月16日

 国民の多数の意思によって形成された議会が制定した法律であっても、それが憲法の諸規定に反していないかを裁判所が判断することになります。国民の権利の保障のために、多くの国でこのような違憲審査制が採用されています。ただし、日本の違憲審査は保守的で慎重であると評されます(司法消極主義)。約60年の最高裁判所の歴史の中で法令を違憲としたのは7種8回にすぎません。
  この論文は日本の違憲審査制の2つの特徴を指摘します。一つは、日本の裁判所は多くの法令を合憲としつつも、実質的にその限定ないし拡大解釈をすることで、実は立法府に統制を及ぼす例が少なくないということ、もう一つは、裁判所が法令を合憲とする際、その根拠を憲法自体には求めない場合が少なくないこと、この2点を、具体例を示しながら挙げています。裁判所の憲法判断について緻密に分析してみる必要があると感じさせてくれます。
  筆者の阪口教授は、2002年以降、最高裁の法令違憲判決が増えていること、司法が対峙することになる立法府において大きな政権交代があったこと(2009年)、などに着目しながら裁判所の違憲審査制をめぐる動向を注視する必要性も唱えています。

 
【書籍情報】
山内敏弘先生古希記念論文集『立憲平和主義と憲法理論』(2010年、法律文化社)に収載。筆者は阪口正二郎・一橋大学教授。