戦後の刑事司法をめぐる軌跡を振り返りながら、1990年代からこんにちに至る、刑法・刑事訴訟法および関連法制の「改正」・見直し、刑事政策の動向とその問題点を整理・分析する論文です。
1990年代以降、刑法の部分「改正」がたびたび行われましたが、そのほとんどは重罰化ないしは処罰範囲の拡大でした。この時期手続き法としては盗聴法が制定されるなどして治安強化がはかられました。一方で、批判の強い糾問的な刑事手続きの見直しはほとんど進んでいません。なお、この時期には刑事訴訟法改正によって裁判員制度が創設されました。それは刑事司法の真の改革への契機になりうるという評価もありますが、この論文では、裁判員制度も刑事司法をめぐる全体的な動向の脈絡の中で捉える必要性を強調しています。少年法の「改正」や受刑者の処遇等に関する法律の制定にもこうした治安維持の観点が盛り込まれています。
この論文は、こうした刑事司法「改革」の現状をもたらしている背景に、人々が注目する事件の被害者をクローズアップするマスコミ報道の中で、「安全・安心」を望む人々が「犯罪者」を重罰に処することを求める雰囲気があることなども指摘しています。また、いわゆるビラ入れ事件についての判決などを紹介しながら、裁判所も治安強化の方向で刑法を「乱用」しているとし、警鐘を発しています。 |
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【書籍情報】 |
筆者は、安達光治・立命館大学教授、竹内謙治・九州大学准教授、豊崎七絵・九州大学准教授。法律時報増刊『改憲・改革と法』(2008年)に収載。 |
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