論文「労働法学と司法制度改革 −労働審判制度の意義と課題」 筆者:H・O
2011年3月21日
 2006年から労働審判制度がスタートしました。労働紛争の解決手段には、使用者と労働組合との団体交渉や各都道府県の労働委員会による解決などもありますが、労働審判は、裁判所が、個々の労働者と使用者との間に生じた紛争を解決する制度です。この制度も、2001年にまとめられた司法制度改革審議会意見書にもとづく司法改革の一環として具体化されました。
  従来、労使紛争が裁判所に持ち込まれても、時間がかかり、労働問題を専門的に取り扱っているわけではない裁判官が判断することになることから、当事者には不満が残る場合が少なくありませんでした。そこで、迅速かつ専門的な処理をめざす労働審判制度ができたのです。労働審判は、裁判官1名(労働審判官)および労働関係の専門的知識を有する者(労働審判員)2名による合議で判定することとし、原則として3回以内の期日で終了するという制度になりました。労働審判は解雇に関わる紛争などでの活用が広がっており、概して高い評価を受けています。
  筆者である緒方桂子教授は、こうした労働審判制度の内容と評価を整理しつつ、批判的意見も紹介しながら今後の課題を提起しています。批判意見とは、労働審判制度では迅速な解決が求められ、そのため調停による解決も多いことから、かならずしも労働者の諸権利が守られる解決にならない場合もあるのではないかということです。緒方教授もこの指摘を首肯しつつ、労働審判制度の意義を活かしていく上で、労働者の権利に否定的な傾向が生まれている判例の動向を注視する必要性を説きます。具体的には、使用者が自由に労働者を他職種に配転したり、継続的に契約更新してきたパートタイマーの更新を打ち切ったりすることを可能とするような判例が出されていること、などを挙げ、問題提起しました。
  労働審判制度を本当に当事者の役に立つものにしていくためには、労働問題についての裁判の動向を監視していくことが必要だということを唱える論文です。
 
【書籍情報】
『法の科学』第41号(民主主義科学者協会法律部会機関誌、日本評論社)に所収。筆者は緒方桂子・広島大学教授。