法制審素案は「中世の名残り」か  
2013年6月24日
小池振一郎さん(弁護士)
*以下、「小池振一郎の弁護士日誌」に掲載された論稿(2013年6月16日付け)をご本人の了解を得て転載します。

 6月15日付朝日新聞朝刊1面トップに、「取調べ可視化後退」の大見出しが躍った。法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」作業部会が14日素案を公表した。「捜査に著しい支障が生じるおそれがある」ときは可視化しなくていいという例外規定が盛り込まれるようだ。

 現状では、必ず捜査側の裁量によって可視化するかしないかが決められてしまう、それでは意味がない、ということを、口を酸っぱくして強調してきた私としては、案の定、というしかない。

 委員である周防正行映画監督の「警察、検察の方の話を聞いていると、いまだに旧来の取調べの機能にすがりついている。」との談話が載せられている。その通りだと思う。

 法制審は、旧来の取調べの機能に依拠せず、取調べを規制することをまず、全体で確認して、具体的な方策を検討しなければならなかったのに、それを怠り、あいまいにしたまま進んできたから、このような旧態依然の捜査感を打破できていない。これでは、国連・拷問禁止委員会のアフリカの委員が、「(日本の刑事司法は)中世のものだ。中世の名残りだ。」と指摘した通りであり、法制審は、拷問禁止委員会の勧告を全く無視していることになる。

 今からでも遅くない。まず、従来の取調べの機能にすがりつかないことを確認してから、具体的には、取調べ時間の法的規制と、取調べへの弁護人の立会いとセットで、全面可視化を検討すべきだ。

 拷問禁止委員会でアフリカの委員は、取調べに弁護人が立会うことが捜査の妨害になるという日本政府の答弁が理解できない、と言明した上で、件の「中世」発言をしたのだ。

 私たちは、法制審で頑張っている周防監督や村木厚子厚労省局長を激励し、支えていかなければならない。

 こんな状態で、通信傍受など捜査権限だけが拡大されるのでは、法制審は何をやっているのか、と言いたくなる。来年の通常国会にも法案が提出される見込みだといわれるが、こんな法案提出には反対すべきだ。

 拷問禁止委員会で、日本政府を代表する上田大使が、「日本は中世ではない。この分野では最も先進的な国の一つだ。それに誇りをもっている。」とまで開き直ったが、どこが先進的なのか。国際社会では、取調べ時間は短く、弁護人の立会いは常識だ。国際社会は日本政府の答弁にはほとほとあきれかえっていることを、知らないのだろうか。(2013年6月16日)
 
【小池振一郎(こいけ しんいちろう)さんのプロフィール】
弁護士。
第二東京弁護士会副会長、日弁連常務理事などを歴任。
現在、日弁連刑事拘禁制度改革実現本部副本部長、日弁連国内人権機関実現委員会事務局長、日弁連裁判員本部委員、日弁連拷問禁止委員会ワーキンググループ委員、日弁連えん罪原因究明第三者機関ワーキンググループ副座長、第二東京弁護士会財務委員会委員などを務める。