【村井敏邦の刑事事件・裁判考(23)】
少年事件について―吉祥寺強盗殺人事件を手掛かりに
 
2013年4月8日
村井敏邦さん(大阪学院大法科大学院教授)
吉祥寺強盗殺人事件

 本年2月28日、東京都武蔵野市吉祥寺本町2丁目の路上を歩いて帰宅中だった女性が背中や腕を刃物のようなもので刺され、持っていたバッグや財布などが奪われるという事件が起きました。この事件で、まず、ルーマニア国籍の17歳の少年が逮捕され、次いで、出頭してきた18歳の日本人少年が逮捕されました。
 17歳の少年は、最初は、他人名義の通帳を持っていたというので、占有離脱物横領罪で逮捕されています。その後、(少年の持っていた手袋に付着していた血液のDNA型が被害者のものと一致したということで、?)強盗致死罪で再逮捕されました。他人名義の通帳をもっているところを職務質問されたのは、去年のことのようですから、そのことについて、何か月も経った時点で占有離脱物横領罪で逮捕するのは、強盗致死罪の証拠を得るために行われたと見ることもでき、違法な別件逮捕にあり、問題の捜査方法である可能性があります。
 この二人の少年は家裁送致となりました。まだ審判期日の決定は出ていませんが、家裁での審判には付されることになるでしょう。事件が強盗致死事件とされているので、捜査段階では、必要的に国選弁護人が付きます(刑事訴訟法37条の2第1項)。審判に付されると、この弁護人が付添人になることがほとんどですが、国選付添人になるとは限りません。少年法によると、「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪」か「死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁固に当たる罪」の事件であって、審判に検察官が関与する必要があると認められて、審判に検察官を出席させるという決定がされた場合(少年法22条の2第1項)には、家庭裁判所は、弁護士である付添人を付さなければならない(22条の3第1項)とされているので、国選付添人が必要的です。しかし、検察官関与の決定のない場合には、「事案の内容、保護者の有無その他の事情を考慮し、審判の手続に弁護士である付添人が必要である」と家庭裁判所が認めるときは、「弁護士である付添人を付することができる」(同条第2項)とされていますので、国選付添人がつくかどうかは、裁判所の裁量にかかっています。
 吉祥寺の事件は、法定刑が「死刑又は無期懲役」とされている強盗致死事件ですので、事件としては必要的付添人を付するに適した事件ですが、その上で、検察官関与の決定がない限りは、必要的とはなりません。事件が重大ですから、この事件では、すでに付添人が選任されていますが、国選となるかどうかは、上記のように、裁判所の決定次第、裁量次第ということになっています。

国選付添人制度について

 少年事件における付添人制度は、少年法制定時からありました。しかし、それは、任意のもので、少年または家族が選任した私的なものでしかなかったのです。しかも、付添人の選任は、審判になってから初めて認められる(少年法10条)ものでした。刑事事件については、憲法3第3項が国選弁護人を付する権利を保障しています。しかし、少年事件については、そのような憲法上の保障もなく、少年法上も国選付添人は制度化されていなかったのです。
 捜査段階においては、少年事件も刑事事件としての捜査を受けます。少年事件については、捜査も一般刑事事件とは違う扱いをする国もあるのですが、日本では、その区別をしていません。
 刑事事件については、2004年の刑事訴訟法一部改正によって、被疑者国選制度が実現しました。この結果、少年についても、捜査段階では、一般刑事事件と同様、国選弁護人が付きます。また、弁護士会独自に被疑者援助制度をもっているので、国選弁護の対象でない事件についても、資力の十分でない被疑者については、この制度を活用して弁護人が付きます。
 ところが、少年が家庭裁判所の審判を受ける段階になると、もはや被疑者ではないので、被疑者国選制度は適用されません。上で述べたように、刑事事件については、国選弁護人制度がありますから、起訴された後も、国選弁護人がつくことができますが、少年の場合には、国選付添人制度を創設しない限りは、貧困な家庭の少年については付添人がつかない状態で審判に臨まなければならないということになります。
 このような事態を打開するために、弁護士会を中心として、少年事件について国選付添人制度を設けるべきである動きが生じました。その運動の成果もあり、2000年の少年法改正では、はじめて国選付添人制度が新設されました。ただし、この改正では、検察官関与の導入といわばバーターのような形で国選付添人制度認められました。しかも、その範囲は、上記のように、「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪」か「死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁固に当たる罪」の事件という非常で制限されたものです。

国選付添人全面化への動き

 弁護士会を中心として、国選付添人制度を少年鑑別所送致の決定があったすべての少年にまで拡大しようという運動が展開されました。その成果として、2007年改正で、検察官関与の決定のない場合でも、鑑別所送致決定のあった一定の事件については、裁判所の声量によって国選付添人をつけることができるという「裁量的国選付添人制度」が新設されました。
 検察官関与決定がない事件についても、国選付添人がつくようになったというのは、大きな進歩です。しかし、その範囲は依然として上記の重大事件に限られています。刑事事件の被告人については、請求があればすべての事件に国選弁護人を付けることになっています(刑事訴訟法36条)。被疑者については、当初は、「死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁固にあたる事件」に限られていましたが、2004年の改正によって、「長期3年を超える懲役若しくは禁固にあたる事件」に拡張されました。これによって、窃盗や傷害などの事件についても、国選弁護人がつくことになったのです。
 この被疑者国選の拡張によって、少年事件との格差は格段に大きくなりました。たとえば、窃盗事件について考えてみますと、成人の場合には、捜査段階から公判段階まで国選弁護人の選任が可能です。しかし、少年の場合には、捜査段階では国選付添人をつけることができますが、審判になると、私選でしか付添人をつけることができません。
 少年事件は、万引きなどの窃盗事件が圧倒的です。そうした事件の審判に国選付添人が制度化されないというのは、多くの少年に付添人なしで審判に臨めということに等しくなります。
 弁護士会らの本来的な主張は、すべての事件、少なくとも鑑別所送致の決定があったすべての事件への国選付添人制度の拡張です。国選弁護人制度と同様の形ですと、審判になってからは、すべての事件について国選付添人が拡張される必要があります。しかし、捜査段階で国選弁護人がついていたのに、審判段階では国選付添人がつかないという事態をなくすことが、最低限の要求ということになります。

法制審議会の決定した少年法改正要綱

 本年2月8日、法制審議会は少年法改正要綱を決定しました。この要綱によると、死刑または無期、もしくは長期3年を超える懲役・禁固にかかる事件については国選付添人をつけることができるとされています。上で、最低限度の要求とした点はこれによって実現されそうです。
 しかし、実は、この拡張には検察官関与の拡張が必然的についてきています。要するに、検察官関与とのバーターで国選付添人の範囲が拡張されるという提案です。
 加えて、少年刑の引き上げも提案されています。現行少年法51条2項では、罪を犯すとき18歳未満の少年に無期刑を科すことを選択した場合でも、有期刑を選択することができ、その場合には10年以上15年以下の刑を言い渡すことになっています。ところが、法制審は、これを「10年以上20年以下」にする提案を行っています。また、少年に長期3年以上の有期懲役・禁固を科す必要がある事件については、短期5年、長期10年を超えない範囲で不定期刑を言い渡すことになっています(少年法52条2項)。法制審決定は、これを短期10年、長期15年に引き上げるというのです。

危機にさらされる少年

 少年の事件は、必要以上にマスコミが注目します。それは、日本だけの現象ではないようです。「危機にある子供(Children at Risk)」という本があります。この中では、イギリスのマスコミは、少年の事件を起こすと、扇情的に書き立て、いかにその少年がひどいかをいうことを必要以上に強調する傾向があると書かれています。
 同様の傾向、あるいはそれ以上に日本のマスコミは、少年事件を扇情的に書き立てる傾向があるといえるでしょう。最初に取り上げた吉祥寺事件でも、週刊新潮は、「凶悪冷血『未成年ペア』肖像写真と荒廃家庭」の見出し付きで、少年たちの顔写真と実名を報道しました。少年法61条は、「家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない」としています。これは、傷つきやすく、まだこれから育っていく少年の将来を考え、少年を保護するための規定です。週刊新潮の記事は、明白にこの禁止を侵しています。
 週刊新潮をはじめとして、いくつかの週刊誌などは、この規定に挑戦するかのように、少年を特定する記事を掲載してきました。少年の保護より、少年の糾弾を優先させるべきだというのです。
 このような傾向は、マスコミに限りません。前述の少年法改正要綱もその傾向を反映させたものです。少年の保護を考えずに被害者感情や刑事事件とのバランスを優先させるものです。このような状態が日本の将来を良い方向にしていくのでしょうか。大変に疑問であり、危険な傾向だといえます。
 
【村井敏邦さんプロフィール】
一橋大学法学部長、龍谷大学法科大学院教授、大阪学院大学法科大学院教授を経て、現在一橋大学名誉教授。法学館憲法研究所客員研究員。