「法曹一元」―お隣りの国の果敢な挑戦  
2013年3月25日
西 理さん(西南学院大学法科大学院教授)
 今回は2月2日に京都弁護士会で開催された「法曹一元シンポ」と法曹一元について述べてみたい。このシンポには、かねてパネリストとして出席を求められていたのだが、「パネリストなんておこがましくて、とてもとても」ということでお断わりしていた。しかし、法曹一元の採用に踏み切った韓国の実状視察の報告がなされるということであり、また、同期の元裁判官で、その後退官して京都で弁護士として活躍されているK弁護士やD弁護士に、それこそ何十年ぶりかでお会いすることができそうだという魅力には抗し難く、結局お引き受けしたのであった。
 ところで、法曹一元とは弁護士や検察官その他から裁判官に任用するという制度である。わが国でも、この制度を採用すべきだという主張は、主に弁護士会などからなされてきたが、これまでついに実現したことはない。資格試験の合格者の中から採用された若者を、裁判所がいわば子飼いの裁判官として養成するというキャリアシステムが一貫して採られてきた。どちらも一長一短はあるが、キャリアシステムでは裁判官の官僚化ということが避けられない。というより、そもそもこの制度下では裁判官は官僚そのものなのである。そのことからくる弊風は想像に難くないし、現下の日本の裁判所について語られる問題点の多くは、キャリアシステムを採用していることから生じていると言っても過言ではない。
 そのような認識から、私は、法曹一元制度の実現を願ってきたし、先の司法制度改革を機にその方向に大きく舵が切られるのではないかと期待した時期もあった。しかし、そうはならなかったことは周知のとおりである。遺憾なことであるが、法曹一元を実現するための条件が整備されていなかったことも認めないわけにはいかない。まず、最高裁が法曹一元制度に拒否的な態度であることは疑問の余地がない。また、拙稿(「司法行政について」)でも紹介したとおり、わが国の裁判官もこの制度の導入には消極的ないし否定的なように思われる。さらに、裁判官任官候補者の母体となるべき弁護士の意識やその置かれている客観的な状況も、法曹一元に踏み切るどころの話ではなかったように思われる。要するに、あらゆる意味で機が熟していなかったのである。
 このように、法曹一元に踏み切る絶好の機会であった司法制度改革においてもその機を逸したことにより、この制度の実現はもはや夢物語になったかに見えた。ところが、京都弁護士会では、法曹一元の実現を断念するどころか、今なお粘り強く熱い議論と研究を続けているという。只々、敬服するほかはない。そんなところに降ってわいたように、お隣の韓国が法曹一元の採用に踏み切るらしいという話である。今年から10年がかりで、法曹一元に切り替えるというのである。これには完全に不意を衝かれ、大変驚かされた。一体、そのような決断をした背景には何があるのか、果たしてこの制度を採用する条件は整っているのか、そして、この壮大な実験が成功する保証はあるのかなど、興味とともに心配も尽きない。しかし、今般の視察報告によると、関係各界には法曹一元に対する取組について温度差があることは当然としても、この方策を推進するために協力しなければならないという一点においては足並みが揃っているようである。特に、裁判所側がそのような態度を明らかにしているということは大きい。あたかも、わが国における裁判員裁判の実施に向けた裁判所の組織を挙げた取組みを彷彿させるものがある。いろいろ困難はあるであろうが、これなら成功するのではないか。いや、是非とも成功させてほしい。そう心から念願するものである。
 
【西理さんのプロフィール】
大分地・家裁所長、福岡高等裁判所判事(部総括)を経て現在西南学院大学法科大学院教授