高知白バイ事件とその裁判(その1)  
2011年12月19日
大野耕さん(片岡晴彦さんを支援する会副会長)
事故から8か月経過後、初めて高知地検で片岡氏が見せられたブレーキ痕写真

高知白バイ事件とは

 2006年3月3日午後。高知市(旧春野町)の国道56号線の変則交差点で、中学生22名と引率教員3名を乗せたスクールバス(以下バス)と高知県警の白バイの衝突事故が発生した。バスの運転手の片岡晴彦氏は事故から8ヶ月後の同年11月に検察で事情聴取を受けることになった。その時に副検事が説明した事故状況は片岡氏の体験した交通事故とはまるで別のものとなっていた。事故形態を巡って押し問答が続いた後、副検事は一枚の写真を示した。これが後に高知白バイ事件最大の疑惑となるバスのブレーキ痕を撮影したものだった。結局、片岡氏は起訴され2007年に裁判が始まることになる。この事件の詳細については、KSB瀬戸内海放送のホームページに掲載されてる高知白バイ事故の特集をご覧いただきたい。

 禁固1年4ヶ月の刑期を終え、2010年2月に出所した片岡氏は、私たちと支援者ともに再審請求の準備を始め、2010年10月に高知地裁に再審請求を提出した。その後の展開は予想以上に早く、2011年4月には再審三者協議が開催された。それ以降12月現在で10回を超える三者協議が開かれており、次々と新事実がでてきている。高知地裁はその中で2012年4月には再審開始の是非の判断を下すと片岡氏に伝えている。

 私はこの事故当初よりバス運転手の片岡氏を支援しているが、法的な資格や裁判についての格別の知識を持っていない。片岡氏を支援する過程において、弁護士と折衝し、裁判の傍聴を続けているうちに、この国の司法や法曹界が想像以上に閉鎖的で、裁判というものが私たち市民の常識とは違うことを知ることができた。そして、公判に提出された証拠や事実がどのようなものであれ、結局は裁判官次第で判決はどうにでもコントロールできるのではないか。そういう不信感を持つに至っている。
高知白バイ事件裁判の特徴は、片岡氏が再審無罪を勝ち取ることが、警察の証拠捏造や偽証という組織的犯罪行為を立証することに直結しているところにある。現に片岡さんは裁判の中で警察の証拠捏造を訴えるともに高知県警らを証拠隠滅罪で刑事告訴していた。上告棄却の直後、高知地検はその告訴を嫌疑なしとして不起訴とした。その後、片岡氏は高知検察審査会に不服申し立てを行った結果、2009年1月に高知検審は「市民の感情として納得できない」として不起訴不当の議決を下した。出所した後にも事故の目撃証言をした高知県警白バイ隊員を偽証罪で告訴中である。

高知地裁公判

 2007年1月から始まった高知地裁公判では双方の主張は真っ向から対立した。公訴事実では「バスは路外施設から国道に進入する際に、右方の安全確認を怠り、右方より進行してきた白バイに気が付かないまま、時速5〜10kmで進行して、白バイに衝突し、白バイ隊員を死に至らしめた」とされた。一方の片岡氏は、衝突時の様子を次のように主張した。「左右の安全を十分に確認して国道に進入した。その後、右折待ちのため中央分離帯付近で停止中に右方より白バイが衝突してきた」

裁判ではバスは走行していたか、停止中だったのかが最大の争点となった。検察はバスが走行していた証拠として、冒頭に述べたバスの急ブレーキ痕とされる約1mの路面痕跡の現場写真や、たまたま現場を通りかかり事故を目撃したという同僚の白バイ隊員を証人として申請した。片岡氏はバスに乗っていた教員とバスの後ろから事故の瞬間を目撃した学校長や、事故直前に高速運転の白バイを目撃した第三者を証人として申請し、バスが中央分離帯付近で停止中に白バイにぶつけられた事故であり、事故の原因は白バイの高速運転にあると主張した。裁判の結果は先に述べたとおりだ。その判決の中で学校長らの証言は信用性がないと却下された。その理由は証拠写真に写っているバスのブレーキ痕という客観的証拠の存在だった。しかし、そのスリップ痕がバスのものであるなら、事故の捜査や事故現場の状況に大きな矛盾がでてくる。そして、そのスリップ痕そのものにも物理的に矛盾したところがいくつも存在していたが、片多裁判官はその矛盾をあえて無視したかのような事実認定をおこなった

 交通事故捜査とは物理法則に則り行うものであることは明らかだ。同様に裁判官も物理法則に則り事実認定を行うべきであることに異論はないだろう。破損した車両の状況や停止位置、部品の散乱状況、スリップ痕等の路面痕跡である程度の衝突形態は判明する。それに乗客や目撃者の証言が加われば、どのような事故形態であったかは解明は可能なはずだが。それがそうはならなかったのが高知白バイ事件の裁判だ。
高知白バイ事件の裁判には先に述べた特徴があるが故に、今の司法の抱える問題がことさらに浮き彫りになっている。次回は、高松高裁判決を中心に詳しくお伝えするとともに、一連の裁判を通して感じた今の司法の問題点に触れたいと思う。

<つづく>

 
「高知白バイ事件・片岡晴彦さんを支援する会」
所在地 高知県吾川郡仁淀川町長者乙2494
会長  高木幸彦
2008年9月に片岡晴彦さんの友人やバス乗客だった中学生の保護者を中心として結成。裁判費用の募金活動や署名活動の他、事件の周知宣伝活動を行っている。現在も再審開始を求める署名活動を行っている。
ホームベージ http://haruhikosien.com/
公式ブログ  http://haruhikosien.blog28.fc2.com/
Eメール   haruhikosien@gmail.com