取調べの可視化(全過程の録画)は、人権保障の第一歩  
2011年11月28日
川上園子さん(アムネスティ・インターナショナル日本・活動マネージャー)

 2011年5月、江田五月法相(当時)は、「新たな刑事司法制度を構築していく」ことを目的として法制審議会に対して諮問した。これを受けて法制審議会は同年6月に「新時代の刑事司法制度特別部会」を設置したが、その審議の中で大きな焦点の一つが、取調べの録音・録画の拡大と法制化についてである。

 他方、江田五月法相は、同年3月に公表された「検察の在り方検討会議」の提言を受け、検察庁特捜部及び特別刑事班で身体を拘束した事件について、全過程の録音・録画を含む録音・録画の試行を指示した。

 その後も8月に、法務省が取調べの録音・録画に関する省内勉強会の取りまとめと取組方針を発表するなど、取調べの録音・録画の法制化については、かつてないほど議論が行われているように見える。その背景には、相次ぐ冤罪事件によって法務省や警察庁など捜査当局が社会的批判にさらされたこと、また、与党となった民主党がそのマニフェスト(2009年)に取調べの可視化を掲げていたことなどがある。

 しかし、法制化に向けた動きは決して早いとは言えず、法案提出の目途は立っていない。また、取調べの「全過程の録画」については捜査機関側の根強い抵抗があり、「一部録画」の導入に留めようとする動きも見られる。「一部録画」は、捜査当局側の都合の良い部分しか録画されない危険性が高く、日弁連やアムネスティ・インターナショナルなど多くの市民団体は強く反対している。

 アムネスティは、世界各地の拷問や虐待の廃絶を目指し、また、公正な裁判の保障を求めて取り組んできた。その中で、長年にわたって日本の刑事司法制度の問題を指摘してきた。日本の刑事司法制度は自白偏重であり、多くの場合、自白は代用監獄制度の下で被疑者が長期間にわたって勾留されている間に得られている。自白を得るために、弁護人の立会いが認められない中で殴打や脅迫、睡眠時間のはく奪、早朝から深夜に渡る取調べ、被疑者を不動の体勢で長時間立たせたり座らせたりするなどのさまざまな拷問や虐待が行われていることが繰り返し報告されている。

 こうした拷問や虐待と自白の強要を防止するために、被疑者に対する取調べを適正なものにするための人権保障措置を具体的に講じる必要があることは、これまでに報道されている冤罪事件からも明らかである。とりわけ、国連の拷問等禁止委員会、自由権規約委員会などが勧告しているように、代用監獄制度の廃止、取調べ中の弁護人の立会い、証拠の全面開示、そして取り調べの全過程の録音・録画は人権保障措置の必須事項である。

 自由権規約委員会は、2008年の自由権規約に関する日本政府への総括所見で、取調べの全過程の録画の確保と弁護人の立会いの権利保障を勧告し、同時に、「刑事捜査における警察の役割は、真実を確定することではなく、裁判のための証拠を収集することであることを認識」すべきである、と明記している。

 法務省、警察庁と同庁を所轄する国家公安委員会、法制審議会特別部会、そして与野党など、取調べの録音・録画の制度化の議論に関係するすべての関係者は、上記の言葉をしっかりと胸に刻み、国際人権基準に沿った方向性を早期に打ち出し、実現すべきである。


 
【川上園子(かわかみ・そのこ)さんのプロフィール】
アムネスティ・インターナショナル日本 活動マネージャー。
日本インドネシアNGOネットワーク事務局長を経て2002年からアムネスティ・インターナショナル日本のキャンペーン担当し、現職。
12月7日(水)
取調べの可視化を求める市民集会
なぜ、無実の人が『自白』をしてしまうのか 〜取調べの全過程の録画が必要なワケ〜
相次ぐ冤罪事件の無罪判決により、捜査機関の密室での無理な取調べが明らかになっています。取調べの可視化を導入すべきという声は高まっていますが、依然として、取調べの全過程の録画によって取調べの機能が低下し、供述を得にくくなるといった主張が捜査機関を中心に根強くあります。
また、「罪を犯していないのに自白するわけがない」という意見も、いまだによく聞かれます。
今回は、自白の心理を研究し、『証言の心理学』(中公新書)の著者である高木広太郎さん、布川事件の冤罪被害者であるの桜井昌司さんなどをお招きし、無実の人が自白する過程や背景を考えながら議論していきます。
ふるってご参加ください。
■日時: 12月7日(水) 19:00〜20:30 (開場 18:30)
■会場: 弁護士会館2階講堂クレオ (東京都千代田区霞が関1-1-3)
http://www.nichibenren.or.jp/jfba_info/organization/map.html
地下鉄丸の内/日比谷/千代田線「霞が関」駅 B1-b 徒歩1分
地下鉄有楽町線 「桜田門」駅(5番) 徒歩8分
■参加費: 無料(事前申し込み不要)
プログラム
(1) 基調講演「自白の心理学−なぜ無実の人が『自白』をしてしまうのか」
講師:高木光太郎さん(青山学院大学教授、法心理学)
(2) パネルディスカッション
「取調べの可視化(全過程の録画)が必要なワケ」
パネリスト
高木光太郎さん
小坂井 久さん (弁護士/法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会幹事)
桜井昌司さん(布川事件 冤罪被害者)
青木和子さん(弁護士/布川事件弁護団)
コーディネーター
若林秀樹 (アムネスティ・インターナショナル日本事務局長)
主催:取調べの可視化を求める市民団体連絡会
【呼びかけ団体】 アムネスティ・インターナショナル日本/監獄人権センター
日本国民救援会/ヒューマンライツ・ナウ
【構成団体】 国際人権活動日本委員会/社団法人自由人権協会/人権と報道・連絡会/菅家さんを支える会・栃木/富山(氷見)冤罪国賠を支える会/フォーラム平和・人権・環境/名張毒ぶどう酒事件全国ネットワーク/袴田巖さんの再審を求める会/袴田巌さんを救援する清水・静岡市民の会/布川事件・桜井さん、杉山さんを守る会/無実のゴビンダさんを支える会/無実の死刑囚・袴田巌さんを救う会
共催:日本弁護士連合会/東京弁護士会/第一東京弁護士会/第二東京弁護士会
【お問合せ】
アムネスティ・インターナショナル日本 tel: 03-3518-6777
監獄人権センター tel: 03-5379-5055
日本国民救援会 tel: 03-5842-5842