『原爆症認定集団訴訟たたかいの記録』  
2011年9月12日
大久保賢一さん(弁護士・原爆症認定訴訟弁護団)

 1945年8月、広島・長崎に原爆が投下され、20万人を超える人びとが犠牲になりました。さらに、生き残った多くの人びとが原爆症となり、その後も過酷な人生を余儀なくされることになりました。
  被爆者は原爆の熱線・爆風による創傷・熱傷に苦しみ、また、放射線被曝による急性放射線障害(発熱や下痢、脱毛など)や、残留放射線被曝による晩発性障害(がんや白血病、白内障、瘢痕性(はんこんせい)萎縮による機能障害(いわゆるケロイド)など)に冒されることになりました。こうした被爆者は、国に「原爆症」と認定されれば「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」に基づき、毎月医療特別手当が支給されます。しかしこの間政府は、被害と国の責任を狭く小さなものにとどめようと原爆症の認定を限定しており、被爆者手帳を持つ25万人余の被爆者のうち、認定者はわずか1%となっています。これまで認定されなかった被爆者たちは国による却下処分の取消しを求める集団訴訟を起こしました。これが原爆症集団認定訴訟です。
  原爆症認定訴訟は全国で300人余りが提訴し、これまで約280人が勝訴しています。私たちは、その過程を資料とともに克明に記録する記録集『原爆症認定集団訴訟 たたかいの記録 』(全2巻)(日本評論社)を刊行しました。裁判や運動の経緯、論点などを解説(第1巻 解説集)し、訴状、裁判での意見書などの資料を収録しています(第2巻 資料集)。また訴訟や支援運動を克明に記録したDVDも付きです。
  また今年3月に発生した福島第一原発事故においても、原爆症の認定同様、国、東電は大量に放出された放射性物質の影響や蓄積した残留放射性物質などの影響を過小評価しています。しかし、この集団訴訟で明らかになったように放射性物質が人体に与える影響は、多大です。
生命に深く、長く悪影響を与える「核」自体が持つ性質を知り、それを明らかにするためにも今回の訴訟から、学ぶことは数多く存在します。
  その点でも、この訴訟の持つ意義を知っていただきたいと思います。

 なお、作家・大江健三郎氏はこの本、以下の推薦文を寄せてくれました。
  本書理解の一助にしていただきたいと思います。

「隅ずみまで明快な 偉大な本」
  「二十世紀に人間のたどりついた、究極の決意は何だったか、といま福島原発事故の大きい放射能汚染のなかで、あらためて確認します。「ふたたび被爆者をつくらせない。」
  この大きい本は「証言集」「資料集」ともに文章の明確さできわだっていますが、原爆症認定集団訴訟までの苦しみにみちた経験と裁判そのものが(原告の次つぎの死)、訴訟の原理的正しさともども被爆者たちにこの表現をあたえたのです。弁護人、各界からの専門家の文章にも共有されて、本書を比類のない(しかも読みやすい)偉大な本とします。
  私は危機を超えての「希望」を見ました。」

 
【大久保賢一さんのプロフィール】
1947年生まれ。東北大学法学部卒業。弁護士。埼玉弁護士会所属。日本反核法律家協会事務局長。