裁判員裁判の共犯事件から見る「有罪推定」(2)  
2011年4月11日
大河原眞美さん(高崎経済大学教授)
<前回からの続き>

 検察官は、本事件の公判の前に、証人尋問に先立って服役中の実行犯3名とそれぞれ10回面会している。実行犯の1人の法廷での証言には、検察官の言語的特徴が顕著に見られた。書き言葉の特徴や冒頭陳述の言語表現の使用例や検察官の職業的言い回しや法曹界特有表現や供述調書に類似した言語形式などがあった。紙面の関係で紹介は出来ないが、主尋問における証人の回答を繋ぎ合わせると供述調書のような書面になる。証言には検察官の影響力の強さが窺える。

例1 書き言葉表現(修飾節+名詞)
「それに腹を立てた○○が△△を使って××に暴行を加えさせていました。」
話し言葉では、「○○は、それに腹を立てて、△△を使って、、、」となる。
(証人尋問調書)

例2 検察官と同一表現
「△△に対して、暴行を指示しました。」            (証人尋問調書)
「さらなる暴行を指示しました。」               (冒頭陳述要旨)

例3 的確な検察官の職業的言い回しの影響:指示語
「○○が、その息子が殴られたことに対して腹を立て、同じような目に遭わせようと、相手の親と子を呼び、○○の家に呼び出しました。」        (証人尋問調書)
一般的な話し言葉であれば、「○○は、息子が殴られたことに腹を立て、仕返しをしようと、自分の家に親子を呼び出しました。」であろう。

例4 法曹界特有表現
「人1人の命がなくなっているからです。」        (証人尋問調書)

 被告人が保釈されなければ、弁護人は被告人と十分な時間をかけて接することができない。接見ではアクリル板越しであるため、事件を契機に初めて顔を合わせた弁護人と被告人とが信頼感が築けるようなコミュニケーションの形成は容易ではない。また、各被告人に異なった弁護人が選任されるため、検察庁のような組織力のない弁護人間では適切な情報交換に困難が伴う。一連の共犯事件を担当した検察官は、事件内容の把握のみならず事件関係者の接触度の高さを生かして公判を有利に進めることができる。裁判官も検察官もリピーターとなる共犯事件では、無罪推定より有罪推定が前提になっていると思わざるをえない。

 
【大河原眞美(おおかわら まみ)さんのプロフィール】

高崎経済大学大学院地域政策研究科長・教授(法言語学)。日本弁護士連合会法廷用語日常化検討プロジェクト委員、家事調停委員、法と言語学会会長、群馬県労働委員会公益委員、群馬県事業・事務仕分け検討会外部委員など。著書に、「みんなが知らない”裁判ギョーカイ”ウラ話」清流出版(2010年)、「裁判おもしろことば学」大修館(2009年)、「市民から見た裁判員裁判」明石書店(2008年)、「裁判からみたアメリカ社会」明石書店(1998年)などがある。