司法に国民の風を吹かせよう(2)  
2011年3月14日
清水鳩子さん(主婦連合会参与・「司法に国民の風を吹かせよう」実行委員会実行委員)

―――清水さんが司法制度改革に熱心なのは、長らく消費者運動にたずさわってきた延長にあるのではないでしょうか。具体的なご経験をお聞かせください。
(清水さん)
  私たちは1973年にジュース訴訟という裁判を始めました。果汁が入ってないのに、なぜオレンジジュースなどの果物の名前を使って売るのか、無果汁表示にするべきだと訴えたんです。この裁判を始める時、主婦連の会員の中から、裁判の費用や弁護士報酬は誰が払うのかという声が出されました。結局、主婦連の中で原告になるのは会長だけにして、裁判の費用なども会員には負担させないということで裁判を始めることになりました。
  1974年にはヤミカルテル灯油裁判を始めました。石油会社がヤミカルテルを結び灯油価格を吊り上げていることを追及する裁判でした。日本生協連などが中心になってくださって東京、神奈川と山形・鶴岡の主婦たちが次々と原告になりました。ところが、やがて原告の脱落が始まりました。主婦たちの中にはもともと「裁判所は悪い人がいくところ」という感覚があり、実際に原告になると夫から反対されたり、裁判をしていると子どもの就職に不利だと言われたりして、「裁判沙汰には関わりたくない」と考える人が出てきてしまいました。
  やはり裁判というと普通の人は腰が引けてしまうところがあります。いまでもそうです。なんとか自分たちの権利を守るため、裁判も活用するという考え方を広げたいと思います。ジュース訴訟は、裁判では負けましたが、その後無果汁の表示がされるようになりました。ヤミカルテル灯油裁判も負けましたが、その後独禁法のカルテルによる課徴金額が上がりました。その結果企業側がカルテル結ぶことに慎重になったのです。ヤミカルテル灯油裁判は、その後自治体の消費生活条例に、不当な被害に対して消費者が裁判を起こすときには、自治体が裁判費用を貸し付ける制度が盛り込まれ、実際に主婦連も活用してきました。

―――司法制度改革審議会が意見書を出し、今般の司法制度改革が始まってちょうど10年になります。清水さんはこの間の改革の到達点をどのように評価していますか。
(清水さん)
  「司法に国民の風を吹かせよう」実行委員会(風の会)は今後その総括を行うことにしているので、個人的にしかお答えできませんが、この間、国民の意識も変化し、自らの権利を守るために裁判も活用しようということになりつつありす。
  法曹人口が拡大され、徐々に改善が進んでいると思いますが、なお弁護士の偏在は解消されていません。司法をもっと身近なものにしていく上で、この課題は今後とも追求されなければなりません。
  刑事裁判は、裁判員制度ができ、市民の司法への参加がすすめられたこと自体はよかったと思いますが、取調べの可視化などが進んでいないことは問題だと思います。

―――清水さんは司法修習生の給与の給費制廃止に反対する取り組みにも参加していますよね。
(清水さん)
  私は消費者運動の中で、貧しい中で苦学して弁護士になり、弁護士として公益的な活動に手弁当でたずさわっている人を多く知っています。したがって、司法修習生への社会的な支援を打ち切り、そのような人材が減っていってはならないと考えます。
  給費制を維持すべきか廃止すべきかは、いろいろな意見があります。私としては、日本はもっと有為な専門家の育成のための財政支援をすすめるべきであり、この課題もその一環と位置づけて考えるべきだと思っています。また、日本は法律扶助制度への財政支援も諸外国より格段に少ないことも問題だと考えています。教育や福祉、司法に必要な予算が充当されるべきです。

―――本日は有意義なお話しをしていただき、ありがとうございました。真の司法制度改革に向け、今後ともよろしくお願いします。

 
【清水鳩子(しみずはとこ)さんのプロフィール】
主婦連合会の事務局長・会長などを経て、現在参与。
「司法に国民の風を吹かせよう」実行委員会実行委員。