新司法試験を受験して〜法科大学院修了生の座談会〜(2)  
2009年11月30日
前回に続いて「新司法試験を受験して 〜法科大学院修了生の座談会〜」を掲載します。(編集部)
【参加者の略歴】
A: 法科大学院修了生(受験経験有) B: 同、平成21年新司法試験合格
C: 同、平成21年新司法試験合格 D: 同、平成21年新司法試験合格(進行役)

法科大学院について

B: 法科大学院の今後については予断を許しませんが、受験科目とは関係ないけれども実務法律家になる上で重要な基礎科目や少人数教育など、従来の司法試験にはなかった新しい教育システムは大事にして欲しいです。この点が過度の受験競争でねじまげられないようにすることを願うばかりです。
A: 既に出口を絞ることで上記の理念が没却されている感はあります。現状で、その理念を守るためには、法科大学院の統廃合や人数削減も止むを得ない選択かもしれません。ただ、単に合格者が少ない地方校から廃止するというのは誤りです。合格者できなかった人が、本当に法律家としての能力と資質を備えていなかったという証明はされていないでしょう。
C: それに、法科大学院を修了し、地域に根ざす実務家を養成するのが趣旨であるならば、逆に地域の法律家の数を逆算して法律家が少ない地域の法科大学院を優先的に残すという方法も考えられるべきかもしれませんね。
B: 法科大学院の入学の時点でかなり「選別」がされれば、新司法試験では7、8割合格でいいですよね。イメージはまさに医学部ですか。その段階ならば仮に法科大学院に不合格になっても年齢的にはまだ他の道を選ぶこともできますからね。現在の制度では、新司法試験に合格せずに、他の道を選ぶには年齢が上がってしまっているという問題があると思います。

各地の弁護士会の増員反対決議について

D: そもそも司法制度改革の主たる目的は、過少司法といわれる現実をふまえ、国民に身近な法律家を多く輩出し、法的サービスを隅々に行渡らせるという点にもあったはずです。ですから、今年度は経過的に合格者の目安が閣議決定で、2500人から2900人ということにされていたにもかかわらず、結果としてその数字を大きく下回ることになっています。
A: 今年の合格者が少なかった点については、弁護士会などが合格者数を増やすことに難色を示したことが強く反映した結果と言えるでしょうね。
B: 私は弁護士を目指すつもりなのであまりいいたくはありませんが、同じ職業を志す後進たちの行く手のことですから、もう少し対応を考えていただきたかったですよね。
C: 医師や公認会計士などは、積極的に後進を迎え入れようとしているように見えますからね。どうして弁護士はこうならないのでしょうか。
D: やはり増員=顧客の奪い合い、というイメージになるからではないかと思います。
A: ただ、増員が即顧客の奪い合いになるというのは早計な気がします。企業や役所、学校など様々なところに弁護士が入っていくことが増員計画のひとつの柱でもありました。弁護士の先生方も、この点をもっと考えていただいてよいのではないかと思います。

弁護士以外の法的ニーズについて

D: この点は弁護士以外の法曹にもいえることなのではないでしょうか。
A: 検察官や裁判官は増えないのでしょうか?
B: 本当は検察官や裁判官ももっと採用するべきでしょうね。
C: 両者とも大変忙しいと聞いていますが、裁判官は3566人(2009年現在)、検察官は2490人(2006年統計)と、数で言うと大変少ないと思います。司法制度改革の成果で、司法制度が国民に身近になってきていることは間違いないですから、法的問題として法律家が関与する事件数はこれからも増加すると思いますから、両者ももっと採用数を増やすことを考えるべきではないでしょうか。
B: 司法予算が少ないから、ということを聞いたこともあります。もっと司法当局が司法を大きくする必要性を国民に示していく努力をすべきではないですかね。

法律実務家としての「質」について

D: 上記テーマとの関係で、法律実務家から、「法科大学院修了生の新試験合格者は質が低い者が散見される」という主張をよく耳にします。この点につき、まさに法科大学院を修了した当事者としてはどう考えますか。
A: この点、先ほど議論になったように、「質」というものの定義が論者によってばらばらであるため、これを明らかにしなければ有意義な議論にはならないですよ。
B: 私は、実務家、特に弁護士としての「質」とは、国民のニーズにどれだけ答えることができるかをもってはかるべきだと思います。高度の専門的知識を有しているのはあたりまえですが、ペーパーテストでは判定できないこまやかな配慮やフットワークの軽さ、依頼者の話しを聞き取る力、などの点が重要視されるべきでしょう。
C: 私も同感です。ここで言われる「質」というのが、司法試験に受かるとか受からないとかいういわゆる「お勉強ができる」こととは別の観点から語られなければなりません。そしてこの「質」は国民が判断することであって、決して同業者の判断が優先するものではありません。実務家は実務家のためにいるのではなく、国民のためにいるわけですから。
B: 新司法試験制度が始まって間もない2007年に、もう実務家の間で「新司法試験合格者は質が低い」という言説が出ていたのを聞いたことがあります。新制度で試験に合格した者はまだ研修所で勉強していた時期に、です。この段階でどうして「質が低い」と判断できるのでしょうか。
C: さらにいえば、新制度を経て実務家になった者たちは、ようやく歩き出したばかりのひよっこばかりです。上記の実務能力も、現役の弁護士の方々と比べればまだまだでしょう。でもそれは当たり前だと思います。最初から実務能力が高い人なんていませんよね。依頼者とともに困難に直面し、失敗し、その繰り返しによって少しずつ力をつけていくということもあるのが実務家ではないのでしょうか。これは旧制度だろうが新制度だろうが、変わらないはずです。
A: そういう意味では、新制度で実務家になった者が独り立ちできる程度にならないと、「質が下がった」なんて判断はできないはずですよね。さらに、その「質」を図るのは、利用者である国民一人一人であるはずですよね。

伝える側(マスコミ)の問題

D: 大分長くなりましたので最後に、法科大学院制度並びに新司法試験は、「法化社会」を下支えする多様なバックグラウンドを持った法律実務家を養成する制度のはずでした。ところが現実的には上記のように、様々なしがらみや政治的圧力を受け、大きな変容を余儀なくされているのが実情です。
B: 法律実務家の増員は「法化社会」のための施策の目玉であるわけですが、そのことが十分に理解されていないようにも感じますね。
B: 新しい法曹養成制度がどういう意味をもち、どういう意図で実務家を増やそうとしているのか、をもっと理解してもらう必要がありますね。
C: それが上手く伝わっていない原因の一つがマスコミにあると私は思います。法科大学院生だったとき、この類のニュースに注意していましたが、伝えられるのは現役実務家の「質が下がった」論の繰り返しと、「合格者が何人出た、あそこのローは合格者が少ない」などの情報ばかり。大本営発表じゃないのですから、その背景にどのような問題があるのか、を批判的に報じて欲しいですね。本当に質が下がったのか? 司法試験合格者が増えないことにはどんな意義があるのか? などの視点で書かれた記事を、私はほとんど見たことがありません。
D: 確かに、マスコミの伝え方にも問題があるのかもしれませんね。これからは、私たちも、法科大学院の意義と法律家を増員することが重要であることを、多くの人に伝えていくとともに、私たちが法科大学院修了の法律家として国民の養成に応え、信頼される法律家になるべく努力することを誓って終わりたいと思います。お疲れ様でした。
一同: ありがとうございました。