新司法試験を受験して〜法科大学院修了生の座談会〜(1)  
2009年11月23日
「新司法試験を受験して 〜法科大学院修了生の座談会〜」を、11月23日、11月30日の2回にわたって掲載します。(編集部)
【参加者の略歴】
A: 法科大学院修了生(受験経験有) B: 同、平成21年新司法試験合格
C: 同、平成21年新司法試験合格 D: 同、平成21年新司法試験合格(進行役)
D: 2009(平成21)年の新司法試験の結果(注1)が発表されました。新司法試験については多くの評価や意見があるところですが、実際に新制度を体験し、新司法試験を受験した者の立場から、それらについて話し合ってみたいと思います。
注1)平成21年新司法試験結果(法務省HPより)
・出願者数9734人・受験予定者(出願者中,法科大学院を修了した者)の数9564人
・受験者数7392人(うち途中欠席39人)・短答式試験の合格に必要な成績を得た者の数5055人
・最終合格者2043人

合格者が少なかったことについて

A: 今年度の合格者数の少なさには驚きました。政府の目標値を下回り、更に昨年の合格者数(2065人)すらも下回るとは思っていませんでした。
B: そうですね。実受験者数では1100人程度増えているのに最終合格者数は減っていることをきちんと考える必要があると思います。法科大学院制度及び新司法試験が、大きな曲がり角に入ったことは確かでしょう。
C: 今年はどうしてこんなに合格者数が減ってしまったのですか?
D: 確か新聞の記事で読みましたが、法務省の対応は例年のとおり、「合格点に到達した者が2043人しかいなかった」というものでしたね。
B: このマジックワードには注意する必要があると思いますね。マスコミなどではこの言葉をそのまま鵜呑みにして「質が低下した」論につなげる傾向があると思います。しかし、受験してみて実感するところですが、合格最低点は、いくらでも操作できると思いますね。
C: 要は、問題を少しでも難しくしたり、採点基準を厳しくすれば、点数を下げることができるのが試験でしょう。
B: そもそも、この試験で数点の違いが、法律家としての資質とか能力とどう関係するのかということが大問題ですけれども。
C: 私は今年の問題は非常に難しく感じました。短答式試験も昨年に比べて難易度が上がり、いわゆる「足きり」にあった受験生の数も2300人強と、かなり増加しました。もちろん論文についても同様です。
B: 今年の問題は試験終了後、各司法試験予備校の解答の筋が割れてはっきりしないなど、例年とあきらかに違う傾向が見て取れましたからね。

制度的な問題について

D: このように、「競争試験」として、しかも「合格者数が最初から決められた試験」となっているのが新司法試験の現状です。これについてはどう思われますか?
B: 資格試験である以上、競争試験であること自体問題だと思いますが、現状ではある程度の合格者数の制限は止むを得ないと思います。ただ、司法制度改革の結果としての新しい法曹養成制度の趣旨に鑑みると、合格者数は当初の計画通り、少なくとも3000人という人数を守るべきだと思います。そのことを前提に法律家を目指した法科大学院生は多いのに、法律家の養成の問題なのに、アンフェアーですよ。
A: 試験内容も、今年のような難問では、その論点についての問題意識を持っている者が必ず有利になる。そして、司法試験委員がいる学校の受験生は、2007(平成19)年の慶応の教授(注2)のようなあからさまな教示はなくても、当該教員の授業を受講することによってその問題意識に触れることになる。一度でも考えていれば、次に現場で類似問題に出会ったときに、「解法のとっかかり」を持っているため、答案の出来が天と地ほどの差になりますよね。
C: それは私も実感しますね。今年の問題でも、この点顕著だと実感しました。そしてこれは当該試験委員やその学校の受験生が悪いわけではなく、制度の問題だと思います。
そもそも競争試験にされて、落とすための試験になってきていることで、そのことはますます重大な問題になっていると思います。平均的な法律家に必要な最少限の理解力と応用力を試すということであれば、異なった問題傾向になることは間違いないと思いますが。
D: また、少し別の観点からですが、試験自体も過渡期とはいえ、非常にぶれている印象を受けます。例えば、出題の方針が、その年度の出題担当者によって180度変わったのではないかという印象を持たざるを得ない科目があったりします。もっと一つの理念にしたがって安定的であってほしい。今年度は択一と論文の配点割合の変更が試験まであとわずかの段階で発表されました。
A: このような制度変更は、受験生に不当に影響を与えないように配慮してなされるべきです。例えばせめて昨年度の合格発表時になされるべきだったと思います。

注2)2007(平成19)年本試験において、行政法の教授が事前に出題範囲を漏らしていたとされる事件

合格者数、新司法試験について

D: 来年以降も合格者数は増えないと思われる現状でいわゆる三振制度(注3)にひっかかる受験生も多数出てしまうことが予想されます。このような現実もふまえ、新試験や法科大学院制度は、これからどうあるべきでしょうか?
A: 先ほどもいったとおり、さまざまな思惑はあるでしょうが、少なくとも3000人のラインを守るべきだと思います。今回の司法制度改革の大きな眼目の一つとしてそもそも法曹人口の増員があるわけですし、三振制度も、法科大学院修了者の新司法試験合格率が7、8割という当初の制度を前提としたものです。合格率が2割台になってしまった現在においては、これを前提に法科大学院に入った人が「完全な裏切り」と感じることは無理ないことだと思います。
C: 三振の人が、法律家の資質と能力において合格した人と明らかに異なるということを証明する責任は、制度運用側にあると思います。そのことの認識がないと、もう有為な人材が法科大学院に進学するということにもならなくなり、結局元の木阿弥になってしまうのでは。それは、法曹界全体にとって由々しい問題だと思います。
D: 新司法試験についてはどうですか?
B: 新司法試験の特徴は、知識を一定程度「覚える」ことはもちろんですが、それを使いこなすための「理解」が要求される、という点にあると思います。単に論証を覚えて完全に再現できるというだけでは点になりません。
C: これは私も同感です。一定の最低限必要な知識は短答式で確認する。論文では、長文の事実から法的に意味のある事実を抜き出し(問題発見)、問題となる条文の意味をよく理解し(必要なら解釈し)事実を適切に評価して、あてはめて結論を出す。これを全8科目、しかも非常に短時間に行わなければなりません。ですから、理解を伝える文章力、長文を読み解く読解力も必要になります。未知の問題が出題されることが多いので、混乱せずに現場で対応する力も必要です。また全4日間、短答式と論文式がいっぺんにきますので、体力や精神力も かなりいります。
D: いうのは簡単ですが、あらためて考えてみると非常に大変な試験ですね。
B: 私はこの新司法試験が、少なくてもは多角的な力を試そうとしている点では、旧試験に比べればよい試験だと思いますし、その方向性自体は、悪くないとも思います。しかし、その内容は、基本的には3年なり2年の法科大学院の授業の中で、授業自体はもちろん、レポートや試験で試されています。ですから、法科大学院で涵養された資質と能力が、法律家として最少限要求されている資質と能力を充たしているかが問題で、そのことをトータルに試す試験になっているとは到底思えませんし、基準が明確に示されているわけでもないですよね。
A: ですから、合格者数を絞るのであれば、その基準を具体的に明確に示すべきですよね。単に、「合格点に達していない」というだけでは、法科大学院の教育を全く無視する話ではないですか。

注3)新司法試験を受験するには法科大学院を修了しなければならず、さらに修了してから5年以内に3回までしか受けられないという受験制限がある