法科大学院 − 他学部出身者および社会人入学者の現状  
2009年11月9日
竹内淳さん(弁護士)
  司法制度改革に基づく新しい法曹養成制度の中核を担うべく、2004年にスタートした法科大学院であるが、現在は制度発足時の理念を達成するにはまだ道半ばといったところである。
特に、標準修業年限である3年制課程(法学未修者コース)修了生の新司法試験合格率は、2008年が22.52%、2009年が18.87%にとどまっており、2年制課程(法学既修者コース)の修了生の合格率(2008年44.34%、2009年38.67%)と比べても大きな差が見られる。多様な人材をひろく受け入れるという理念のもと、主として他学部出身者が入学し履修することが予定された法学未修者コース修了生の新司法試験合格率がこのような低レベルにとどまっているという状況は、きわめて深刻な結果として捉えなければならない。
また、法科大学院に入学する社会人の数が減少傾向にあることも大きな問題である。司法制度改革審議会の意見書および法科大学院の設置基準等を引用するまでもなく、他学部出身者と共に社会人から多様な人材を確保することも法科大学院制度のねらいとするところのひとつであったからである。
このような状況に至ったことについては、いくつかの原因が考えられる。たとえば、法学未修者コース修了生の合格率の低さは、法科大学院の教育課程の問題をはじめ、いまだ未修者教育が十分に行われているとはいえないことが一因であると思われる。教育課程の点についていえば、多くの法科大学院のカリキュラムは法学未修者コースの1年次におけるわずか1年間の学修を経て、その後の2年間は法学既修者と同一の授業を受けることを想定した構成となっているようである。実際、本年4月17日付の中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会の報告書においても、そのようなカリキュラムを前提とした改善策(法律基本科目を6単位程度増加させ、これを法学未修者1年次に配当することを可能とする)が示されている。しかし、法学既修者は法科大学院入学前に法学部などで少なくとも2、3年の法学の学修を経てきているはずである。このことだけを考えても、法学未修者に対する以上のカリキュラム構成に無理があることが容易に見て取れる。やはり法学未修者に対しては、必ずしも法学既修者向けのカリキュラムに合わせることなく、3年間で法曹に必要な基礎力を十分に備え、法学既修者に追いつくことができるようなカリキュラムを考えてみるべきである。
新司法試験の出題も、法科大学院における教育との有機的連携を図るという目的に応じ、法学未修者を含めた法科大学院生が3年間で到達可能なレベルを具体的に想定して、さらに出題範囲や出題の内容を十分に検討すべきである。特に、短答式試験については、個々の問題に対する評価は別として、解答の前提として要求される学習量が明らかに多すぎるのではないか。法学未修者が3年間で学修可能かどうかということを十分に勘案して、出題範囲の限定、試験科目(「民事系科目」等)を構成する分野毎の出題数の比率の見直しなど、さらに検討すべき点は多いと思われる。また、従前の経緯はあれども、短答式・論文式の双方について法科大学院教育に通じたより多くの教員・元教員が作問に関与することも再度検討されるべきである。なお、以上の点に関連して、現在作業が続けられている、いわゆるコア・カリキュラム、到達目標の策定にあたっては「3年間で到達可能なレベル」という考え方が反映されることが望まれる。
社会人にとっては、新司法試験の合格率が全体として低いこと、司法修習生に対する給費制の廃止、さらには「就職難」による先行きの不透明さから、現時点ではリスクを冒してまで法科大学院で学修することに躊躇を覚える傾向があると言われている。高額の授業料や働きながら学修することのできる夜間コースを設置する法科大学院が少数であることも、そのような傾向を助長していると思われる。上記報告書にも触れられているが、早急に奨学金制度や夜間コースを整備・充実することが必要である。司法修習については、給費制の継続を再検討すべきである。「就職難」の問題については、まず実態を正しく把握すると共に、従来の法曹、特に現状の弁護士の職域にとらわれず、どのような分野に法曹資格者に対するニーズ(潜在的なニーズを含む)が存在するのかを十分に調査・検討すべきである(近時話題となった国会議員の政策秘書などは、その一例であろう)。
もちろん、他学部出身者および社会人の法科大学院生になお一層の健闘を期待することは当然であるが、そのためにも法科大学院関係者および法曹養成に関与しているすべての人々が、法科大学院制度創設の趣旨に再度立ち返り、他学部出身者・社会人からより多くの人材を確保できるよう、制度面を含めた努力を継続することが求められる。
 
【竹内淳さんプロフィール】
弁護士、大宮法科大学院大学教授、日弁連法科大学院センター副委員長